第46回日本集中治療医学会学術集会

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シンポジウム

[SY17] シンポジウム17
集中治療医はクモ膜下出血患者を診るべきである

Sun. Mar 3, 2019 10:20 AM - 12:20 PM 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:江川 悟史(TMGあさか医療センター神経集中治療部), 末廣 栄一(山口大学医学部附属病院先進救急医療センター/脳神経外科)

[SY17-3] くも膜下出血急性期における体温・血糖・ナトリウムの管理

岡崎 智哉, 河北 賢哉, 黒田 泰弘 (香川大学医学部附属病院 救命救急センター)

くも膜下出血発症後の急性期において頭蓋内外の合併症を起こすことは良く知られており、転帰との関連も報告されている。その中でも体温管理(発熱)、血糖、ナトリウムの管理について考える。
発熱(>38.3℃)はくも膜下出血患者の70%が経験するとされており、多くの観察研究において死亡や神経学的転帰との関連が指摘されている。動物実験の結果も踏まえ、Targeted temperature management (TTM)が転帰改善に寄与するのではないかと考えられている。現状としてはいくつかの観察研究と規模の小さいランダム化比較試験しか公表されておらず、その結果も異なっている。その理由としては、TTMの目的、方法、開始のタイミング、目標体温、維持期間、復温の方法などが全く統一されていないことに起因していると考えられる。現時点ではランダム化比較試験が予定されているが、結果はまだ随分先になりそうである。
くも膜下出血の血糖管理について明確なエビデンスは少ないが、他のcritically ill patientsと同様にIntensive insulin therapyによる厳格コントロールは行わず、高血糖・低血糖を避けながら血糖の変動(glucose variability)を少なくするのが妥当と考えられる。一方で、くも膜下出血患者における血糖管理において疑問も残っている。例えば低血糖の閾値はcritically ill patientsと同様で良いのだろうか(よく採用される70mg/dlよりも高めに設定した方が良いのではないか)。Microdialysisによる研究では、インスリン使用時には血糖が正常値であっても脳間質では低血糖を認めた報告も見受けられる。また、頭部外傷において早期はやや高めの血糖値を目標にしその後は低めを目標にした方が利点が大きいという報告もある。くも膜下出血に置き換えてみると、たとえばEarly brain injuryの時期とそれ以降で理想の血糖管理が異なる可能性もある。
ナトリウム異常はくも膜下出血の急性期管理中に併発しやすい合併症のひとつである。いくつかの報告によると血清ナトリウム値は最初の3日間上昇しやすくその後から低下しやすい傾向があると報告されており、そのような大きなトレンドを理解しておくことは管理の上で非常に有用と考えられる。低ナトリウム血症についてはその予防や治療に対してのシステマティックレビューも行われているが、現時点で神経学的転帰改善の有効性を示したものはない。高ナトリウム血症は低ナトリウム血症と比較して現時点でも疫学情報も少ない。しかし、低ナトリウム血症よりも転帰の悪化との関連が強そうであり、より注意を払うべき病態と言える。現時点では、ナトリウム異常と転帰との因果関係は明確になっておらず、積極的に正常ナトリウム濃度を保っていくことが神経学的転帰に寄与するかどうかが今後の課題のひとつと言える。
くも膜下出血の急性期において上記のようなことも考え管理を行うことが必要である。