[SY2-4] ICUにおける栄養療法で機能予後を改善できるのか?
これまでの臨床研究は予後を改善する、つまり死亡率を改善することを第一アウトカムとして研究されてきた。それは今後も変わらないであろうが、近年ICUAWやPICSに代表されるように重症病態を脱した後の機能障害の重要性が指摘されてきており、栄養療法のアウトカムとしても注目されつつある。これらの機能障害に関して、栄養療法をいつ、どれぐらい開始し、どのように増量するかなど、未だ不明な点は多いものの、重要な影響を与える可能性がある。最近は様々な研究の結果が出ており、それらを紹介し、重症患者のICU退室後のために考える材料を提供したい。・早期のエネルギーもしくはタンパク投与が予後を悪化させる報告: EPaNICの二次解析(PMID 23204255)で、早期のエネルギー、アミノ酸投与が予後を悪化させる可能性が指摘された。またvan ZantanらもICU入室後3-5日間での蛋白投与量が多い事が予後悪化に関連する(PMID 29486907)と報告しており、同様の機序であることが推察される。(なお、本報告ではICU入室期間中全体の蛋白投与量は多い事が予後改善につながっている。)さらに、大規模RCTであるPEPaNIC trialの2次解析(PMID 28522351)の結果からは、早期にアミノ酸が多い群ではautophagyが抑制され、感染症発症が増える事が指摘されており、早期のアミノ酸投与はAutophagyを抑制し、その結果機能が低下したミトコンドリアや他の有害な蛋白質の貯留を招く可能性がある。しかしながら、それに反する臨床データも下記の如くある・サルコペニア、機能障害予防に関するRCT; Ferrieらの報告(PMID26635305)やTOP-up trial(PMID: 28599676)では、高タンパク群で機能予後は改善傾向であった。・また、観察研究では以前よりBMIが25未満、35以上の症例に関してはエネルギー投与量により死亡率が下がるとの指摘があった。また、古賀らの報告(PMID 29990793)では敗血症の症例中、サルコペニアを認めた症例に関しては早期の経腸栄養開始は低い死亡率と関連した事が報告されており、サルコペニアがある症例に関してはエネルギー投与量は高い方が望ましく、早期に栄養療法を開始した方が望ましい可能性がある。・以上より今現在果たして機能予後に栄養療法が寄与できるか未だ明確ではないが、本邦の症例群はやせ形の割合が高く,サルコペニアのリスクが当然高い。そして、国際栄養調査から本邦での栄養療法を見ると、投与開始が遅く、体重あたりのタンパク投与、エネルギー投与量も他国に比して少ないためか、エネルギー投与が多いことは死亡率が低いことと関連した。以上より、本邦の一般的な重症患者に関しては、早期の経腸栄養投与およびエネルギー、タンパクが多い事が予後改善に寄与する可能性が高い。・今現在果たして蛋白投与量が予後及び機能予後に影響するか大規模RCTが行われており、参加施設を募集中である。ご興味がある方は是非東別府直紀gashibe@kcho.jpまでご連絡頂きたい。