第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY20] シンポジウム20
集中治療患者の低Na血症

2019年3月3日(日) 10:15 〜 11:45 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:齋藤 繁(国立大学法人群馬大学医学部附属病院麻酔科蘇生科), 升田 好樹(札幌医科大学医学部集中治療医学)

[SY20-2] 集中治療室における急性期低ナトリウム血症に対する薬物療法

成宮 博理 (京都第二赤十字病院 救急科)

 集中治療を必要とする患者の急性期低ナトリウム血症の治療は,その原因を鑑別し,除去するとともに,血清ナトリウム値の補正の必要性を検討することから始まる.血清ナトリウム値のみならず,症状の程度が適切な補正の指標とされているが,集中治療中の患者は鎮静,鎮痛下にあることが多く,頭痛や嘔気などの症状を訴えにくく,また意識障害,痙攣も薬剤により評価が困難になる.こうしたことから集中治療中の患者に対する血清ナトリウム値の適切な補正のスピードや方法については,慎重に検討する必要があると考えられる.  急性低ナトリウム血症に対する治療は,3%食塩水などの輸液療法が基本となっており,薬物治療を選択する機会は少ない.しかし,輸液反応性の乏しい状態である場合には,薬物が検討される.体液量が正常もしくは過剰な状態では,ループ利尿剤,デメクロサイクリン,尿素,そしてバソプレシン受容体拮抗薬が挙げられる.特に尿素は,2014年に発表されたヨーロッパ集中治療医学会やHyponatremia Expert Panelにおいて,SAIDによる慢性で軽度の低ナトリウム血症に対して推奨している.集中治療室においても安全に低ナトリウム血症の補正が行え,浸透圧性脱髄症候群の発症を抑えられたとする報告がある.一方で低ナトリウム血症に対するバソプレシン受容体拮抗薬の評価は,ガイドラインによって分かれている.ヨーロッパのガイドラインでは低ナトリウム血症の治療としては推奨しないとされているが,Expert Panelでは選択肢の一つとしている.死亡率に差がなく,過剰補正のリスクをどのように評価するかによって,その推奨度に差が出ていると考えられる. 集中治療中の患者においては,しばしば症例によって薬物治療の反応性に大きな差があり,予想が困難であることから血液透析が用いられることがある.当院で経験した血液透析患者の重症頭部外傷症例において,血清ナトリウム値の変化は数時間後に脳脊髄液中ナトリウム濃度に反映することを経験した. 一方で,想定以上のナトリウム補正が行われてしまった場合の処置として,ブドウ糖液による再補正とデスモプレッシンによる補正速度の調整が必要になることもある.以上のように,急性期低ナトリウム血症に対する薬剤の考え方およびガイドラインなどによる推奨度は大きく異なっている.いずれも脳浮腫,血清ナトリウム値の過剰補正と浸透圧性脱髄症候群の予防に重点がおかれているが,いずれにしてもエビデンスレベルの低い推奨度になっていることには注意が必要である.