第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY20] シンポジウム20
集中治療患者の低Na血症

2019年3月3日(日) 10:15 〜 11:45 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:齋藤 繁(国立大学法人群馬大学医学部附属病院麻酔科蘇生科), 升田 好樹(札幌医科大学医学部集中治療医学)

[SY20-4] 低Na血症に対するトルバプタンと急性血液浄化による治療戦略

片山 洋一, 升田 好樹, 巽 博臣, 赤塚 正幸, 数馬 聡, 後藤 祐也 (札幌医科大学 医学部 集中治療医学)

【背景】重症病態において低Na血症は非常にありふれた疾患であり、低張輸液、希釈された経腸栄養剤、様々な侵襲に対するADH分泌亢進などのICU特有の事象が低Na血症の原因と考えられている。ICU入室時の低Na血症患者の頻度は13.7%,17.6% 、ICU入室中の頻度では29.6%との報告もあり、ICU入室時の低Na血症の存在はICU死亡率、ICU滞在日数増加に対する独立した危険因子である。全入院患者を対象とした検討では、入院後の低Na血症の改善が死亡率低下に繋がると報告されているが、重症患者においては低Na血症の改善が予後に寄与するかどうか十分には検討されていない。近年、選択的バソプレシンV2受容体(V2R)拮抗薬であるトルバプタン投与が低Na血症の改善に寄与し、低Na血症を合併した心不全、SIADHにおいては入院日数を減少させることが報告されているが、低Na血症を合併した重症患者に対するトルバプタンの有用性については十分に検討されていない。重症患者に対するトルバプタンの投与に関して当院ICUの経験を報告する。【対象と方法】2012年7月から2014年3月までの20ヶ月間に当院ICUに入室した患者で、1)ICU入室時体重から2kg以上の体重増加があり、2)血清Na値が145mEq/L以下、3)既にフロセミドを投与している19症例を対象とした。トルバプタンは7.5から15mg/日を1週間以上投与した。血清Na濃度、腎機能の推移、血液浄化療法併用の有無、有害事象の有無について比較した。【結果】トルバプタン投与開始時の血清Na値135mEq/L以上145mEq/L以下が8例、135mEq/L未満が11例であった。血清Naは135mEq/L未満の群で7日後に有意な上昇を認めた。腎機能に有意な変化はなく、尿量は、増加し、水分バランスも負となった。持続血液浄化療法は9例に施行した。持続血液浄化療法に伴う急激な血清Na値の上昇は認めず、有害事象も認めなかった【結語】集中治療における治療抵抗性体液貯留を伴う低Na血症にトルバプタンが有効である可能性が示された。また、トルバプタンによる低Na血症治療介入ができない患者、つまり腎代替療法を要するAKI患者に対する方策として、急激な血清Na濃度の補正を防ぐために透析液のNa濃度を120~130mEq/Lに調整し腎代替療法を実施した経験を報告する。【症例1】83歳女性、胸部大動脈瘤破裂に対するステントグラフト内挿術後にAKIを発症し、ICU入室となった。入室時血清Na値108であった。【症例2】67歳男性、膵管内乳頭粘液性腫瘍術後経過中に細菌性腹膜炎、敗血症性ショック、AKIを発症しICU入室となった。入室時血清Na114であった。