第46回日本集中治療医学会学術集会

Presentation information

シンポジウム

[SY21] シンポジウム21
心拍再開後の神経集中治療:最新の研究成果

Sun. Mar 3, 2019 8:45 AM - 10:45 AM 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:井上 明彦(兵庫県災害医療センター救急部), 木下 浩作(日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野)

[SY21-6] 心拍再開後の呼吸管理が神経学的転帰に及ぼす影響

鈴木 聡1, 田中 愛子2, Glenn Eastwood3, Rinaldo Bellomo3 (1.岡山大学病院 集中治療部, 2.大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学教室, 3.Department of Intensive Care, Austin Hospital, Australia)

ライブ配信】

<研究1:心拍再開後のO2管理>
【背景】過剰な酸素投与は虚血再灌流傷害を増悪させる可能性を孕んでいる。心拍再開後の高酸素血症の発生と予後の増悪に関連がある事が、複数の観察研究で報告されている。【目的】心拍再開後患者において、制限酸素療法は安全に高酸素血症の発生を減らすという仮説を検証した。【方法】心拍再開後ICUで人工呼吸管理が必要な患者に対して、目標SpO2を88-92%とする制限酸素療法を導入し、導入前後各50名の患者で単施設前後比較試験を実施した。ICU入室24時間以内の低酸素血症(PaO2 <60mmHg)、高酸素血症(PaO2 >120mmHg)の発生を調査した。【結果】制限酸素療法は、従来の管理と比較して、低酸素血症の発生は差がなかったが(3% vs. 4%, P = 0.30)、高酸素血症の発生減少と有意に関連していた(24% vs. 45%, P <0.001)。また、制限群はICU滞在日数が有意に短縮した(4日 vs. 5日, P = 0.04)。

<研究2:心拍再開後のCO2管理>
【背景】PaCO2は脳血流を調節する重要な因子であることが知られており、観察研究では、心拍再開後患者での軽度高CO2血症は、神経学的アウトカム改善と関連する可能性がある事が報告されている。【目的】心拍再開後患者において、脳傷害の生物学的指標に対する軽度高CO2血症の効果を検討した。【方法】心拍再開後にICUで人工呼吸管理が必要な患者83名を対象に、入室24時間以内のPaCO2目標値を50-55mmHgに設定したtargeted therapeutic mild hypercapnia (TTMH)群42名と35-45mmHgに設定したtargeted normocapnia (TN)群41名に割付け、バイオマーカーに対する効果を、多施設ランダム化比較試験で検討した。【結果】治療開始後72時間の血清neuron specific enolase(NSE)濃度の推移は、両群で経時的に増加したが、72時間を通じてTTMH群で有意に低値であった(P = 0.04)。S100b蛋白濃度は、TTMH群でのみ経時的に減少した(P <0.001)。6ヶ月時点での良好機能回復(Glasgow Outcome Scale-Extended ≧5)は、TTMH群59% vs. TN群46% (P = 0.26)、生存帰宅率は55% vs. 44% (P = 0.31)であった。

【結論】以上の2つの研究の結果より、制限酸素療法やTTMHといった心拍再開後の厳密な呼吸管理が、脳傷害のリスクを軽減する可能性が示唆された。今後はより大規模で質の高い臨床研究によって、その効果に関しての検討が行われる予定である(NCT03138005、NCT03114033)。