[SY23-1] 術後痛と長期予後
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重症患者管理における疼痛管理は非常に重要で、鎮痛ファーストの鎮静管理を心掛けることの重要性は近年の集中治療領域では受け入れやすいものになっている。集中治療領域において、近年その治療内容もさることながら集中治療室退室後の生活の質や社会復帰できるかどうかなどのところに話題は移りつつある。そこで術後痛や術後痛管理方法が長期的なQOLや予後にどのように影響しているかをいくつかの視点から検討してみたい。 術後鎮痛方法は近年様々な理由から硬膜外鎮痛が減少し、オピオイドの持続静注やIVPCAが増加している。硬膜外鎮痛は体動時痛を抑えられるなど鎮痛の質が高く、術後の呼吸器合併症を減らし、消化管運動機能を維持することでのメリットは大きいが高齢者手術が増えており、術前の抗凝固治療などによりその選択は慎重にならざるを得ない。周術期には様々な理由で免疫系が抑制されるが、それら免疫系と鎮痛ということを考えることは長期予後を考える上で非常に重要である。オピオイドによる免疫抑制は、細胞レベルや動物実験で検証され、感染や腫瘍増大リスクが報告されている。臨床研究においても、腫瘍再発への影響や術後認知機能障害との関連性などが明らかになりつつある。また硬膜外麻酔や末梢神経ブロックは組織血流量を促進するため、術後感染を抑制し創傷治癒を促進することが示唆されてきたが、区域麻酔併用でSSI発生率低下などの発表も散見される。術後鎮痛の創傷治癒への影響や腫瘍免疫の修飾に関しては様々な論議が展開されており、いまだ一定の見解が得られたとは言えないが、短期的な「痛みをとる」ということ以外にも考慮すべきことは多くある。 重症患者管理におけるせん妄発生は患者の長期予後と関連することは定着してきているが、術後認知機能障害(Postoperative cognitive dysfunction:POCD)の発症と退院後のQOL低下や就労困難、さらには死亡率の増加にも関連することが報告されている。POCDの発症機序や予防方法はいまだ解明されていないが、高齢や認知症既往、侵襲度の高い手術や長時間の麻酔・手術、集中治療室入室などがリスク因子になることが明らかになりつつある。また術後痛がPOCDの発症に関与することが示唆されており、適切な術後痛管理を行うことでPOCD発症率を減らすことができる可能性がある。 また遷延性術後痛が退院後のQOLを著しく損なうことは自明で、そのリスクファクターとしては術前からの痛みや神経損傷を伴うような術式、不充分な術後鎮痛が挙げられる。 術後痛を適切にコントロールすることでのPOCDや遷延性術後痛を予防することや鎮痛方法の腫瘍免疫や創傷治癒への影響を考慮することは、長期的な予後改善効果に繋がる可能性がある。