第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY23] シンポジウム23
術後集中治療における鎮痛

2019年3月3日(日) 10:50 〜 12:20 第9会場 (国立京都国際会館2F Room B-2)

座長:天谷 文昌(京都府立医科大学附属病院疼痛緩和医療学教室), 戸部 賢(国立大学法人群馬大学医学部附属病院集中治療部)

[SY23-3] 術後鎮痛の質と呼吸・循環に関する臓器障害

松田 愛 (京都府立医科大学大学院医学研究科 麻酔科学教室)

ライブ配信】

手術侵襲が加わると、生体はその恒常性を維持するため、神経系、内分泌系、免疫系の3つの反応系を変化させる防御機構を持つ。不適切な鎮痛状態は、ストレスホルモンの過剰分泌や交感神経系の過度な活性化をまねき、さまざまな臓器の合併症を引き起こす。術後の痛みは交感神経系を緊張させ、頻脈、後負荷増加、過度な心収縮による心筋酸素需要量の増加と、血栓形成や血管攣縮による心筋酸素供給量の減少が生じ、重篤な不整脈や心筋虚血を引き起こす。また、手術操作による物理的な呼吸筋の機能障害や、内臓求心性神経や体性神経刺激による神経の反射性抑制などによる呼吸機能の低下、術後痛による呼吸運動の制限などは、胸郭コンプライアンスや呼吸パターンを悪化させ、術後無気肺や肺炎をまねく。これらの周術期合併症は、人工呼吸期間や入院期間の延長、早期離床や呼吸療法の妨げにもつながりうる。有効な術後鎮痛はこのような有害事象を改善する可能性がある。特にハイリスク患者の術後臓器障害に対する硬膜外麻酔の効果を検証する臨床試験は複数行われている。高齢者や虚血性心疾患を有する患者など、心血管系合併症の高い患者に硬膜外麻酔を施した場合、心血管イベントが抑制されるという報告がある。また、硬膜外麻酔は、痛みの抑制はもちろん、横隔膜に直接的に作用することにより、横隔膜運動や呼吸パターンを改善し周術期の呼吸器合併症を予防しうる。呼吸予備能の低下した慢性閉塞性肺疾患を有する患者を対象としたコホート研究においても、硬膜外麻酔が術後肺炎のリスクを軽減することが示されている。本講演では、術後鎮痛が呼吸および循環に与える影響について、硬膜外麻酔を中心に概説する。