第46回日本集中治療医学会学術集会

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シンポジウム

[SY7] シンポジウム7
ICUモニタリング up to date

Fri. Mar 1, 2019 5:20 PM - 6:50 PM 第19会場 (グランドプリンスホテル京都B2F プリンスホール2)

座長:小竹 良文(東邦大学医療センター大橋病院麻酔科), 讃岐 美智義(広島大学病院麻酔科)

[SY7-3] 呼吸音の「見える化」

大下 慎一郎 (広島大学大学院 救急集中治療医学)

ライブ配信】

もし,呼吸音を「見る」ことができたら,ICUにおける診療スタイルの何が変わるだろうか?集中治療室(ICU)に入院中の患者は,肺炎,気胸,無気肺,気道閉塞など様々な呼吸器疾患を合併する危険性が高い.現状では,SpO2モニター,EtCO2モニター,呼吸数モニターなどを使用してこれらの早期発見に努めているものの,いずれのモニターも疾患がある程度重篤になるまで異常値を示さない.このため,患者の呼吸音(喘鳴,水泡音,呼吸音減弱・消失,呼吸音の左右差),呼吸様式(努力呼吸,奇異呼吸,頻呼吸,徐呼吸,下顎呼吸),発汗,苦悶様表情など,様々な情報を医師・看護師が経時的に注意深く観察し,総合的に判断する必要がある.その一方で,重症患者を多数並行して治療しているICUにおいて,すべての患者の呼吸状態を,医師・看護師が連続的に評価し続けることは不可能であろう.
この課題を解決するため,私たちの施設では,呼吸音を「見える化」し客観的データとして記録するとともに,自動解析する技術確立に取り組んできた.2013年からパイオニア社と協同して開発してきた電子聴診器(MSS-U11C)の技術を応用して,日本光電社・東京電機大学を加えた産学連携体制で呼吸音の連続可視化モニタリングシステムの開発を試みた.心音・皮膚摩擦音などのノイズを軽減しつつ,センサーを皮膚に貼付可能な形状へ変更し,頸部・胸部の複数個所から同時に呼吸音を描出できるよう改良した.正確性評価は,健常人・患者から集めた呼吸音を使用し,呼吸器専門医が評価した呼吸音分類と本機器の呼吸音分類の一致率で評価する方針とした.
これまでのパイロット調査で本機器の有用性を評価した結果,気管チューブ抜管後に発生する気道狭窄や無呼吸を,医師・看護師が発見するよりもより早期に異常覚知できる可能性が高いことが分かってきた.抜管後気道狭窄や無呼吸は,発見が遅れると致死的になる危険性があるため,医師・看護師による覚知よりも早期に発見できれば,安全性を高めることができると言える.この他,喀痰貯留による水泡音出現,無気肺による呼吸音減弱・消失,気胸による呼吸音量の左右差など,呼吸音を用いることで診断できる,あるいは診断に近づくことができる病態は多い.このため,一人一人の患者の聴診をして回らなくても,呼吸音連続可視化モニタリングシステムのモニターを「見る」だけで,複数の患者の呼吸状態を一瞬で確認できるようになる.さらに,人間の知覚・記憶では曖昧な呼吸状態の継時的変化(徐々に増悪・改善等)も,客観的に評価できるようになる.
呼吸音は原始的で分かりにくい臨床所見という印象があるかも知れないが,誰にでも分かりやすく可視化・定量化することで,現存するモニタリング機器の短所を補う新たなツールとなる可能性がある.