第95回日本医療機器学会大会

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Educational Lecture Next Generation

教育講演・次世代へつなぐ2 滅菌管理部門のあるべき姿の現状と未来

Organizer:MiekoIino(AAA University)

[教育講演・次世代へつなぐ2] 滅菌管理部門のあるべき姿の現状と未来

深柄 和彦 (東京大学医学部附属病院 手術部・材料管理部・病態栄養治療センター)

ここ数年のトピックであった,「単回使用器材(SUD)の再使用禁止」は,新型コロナウイルス感染の爆発的な広がりの中,脆くも崩れ去ってしまった.何しろ,マスクを洗浄することなく,滅菌だけして再使用することを国が認めたのだから.人工呼吸器の使い捨て回路や喉頭鏡の使い捨てブレードも,洗浄・再滅菌が認められてしまった.
あれだけ厳格にSUDの再使用を禁止していたのに・・・それに基づいて,滅菌管理部門に関わるスタッフは正しい再生処理のありかたを院内に広く訴え,実践してきたのに・・・ある意味残念であるが,滅菌管理部門が,絶対的に不足するマスクの再生処理を担当し,病院スタッフや患者を感染から守っていることから,その面目躍如というとらえ方もできるかもしれない.もちろん,本当に滅菌の意味があるのか?フィルタ機能の喪失がないのか?ごくわずかの検証データに頼るだけなのだが.ただ,マスクの再滅菌は,PPEなしでは感染必発なのを防ぐための最後の砦であり,そこまで人類が追い詰められている状況であることは理解できる.
今回の事象を通して,われわれは,滅菌管理部門のあるべき姿の一つを垣間見ることができよう.滅菌管理部門における正しいパフォーマンスの基準は,医療をとりまくさまざまな状況によって左右される.しかし,その基準を捻じ曲げることの良しあしを,本当の意味で患者と医療スタッフの安全を守る上でのバランスを勘案して判断できるのは,滅菌管理部門を担うわれわれしかいないということである.米国のFDAが,厚労省が,OKと言っても,企業がOKと言っても,われわれがむしろ危険であると考えればNOと言えるような,知識と経験を積む必要がある.その根拠となるデータを示すためには,常日頃からのリサーチマインドも忘れてはならない.
滅菌管理部門における生産性も今後の部門のありかたを考える上で重要であろう.「何も生産しない,何も診療報酬を生まない」わけではなく,器材の再生処理を通して,莫大な経営上の貢献を滅菌管理部門はおこなっている.しかし,医療機器・材料の高度化・複雑化の中,用手洗浄物が増えたり,セット組みに難渋する器材も増えている.これまで,この負担増をマンパワーで埋めてきたかもしれないが,それが,生産性の低下,ひいてはスタッフの報酬減にもつながっているかもしれない.再生処理にやさしい器材の開発,採用を世に訴えることも,滅菌管理部門の責務ではなかろうか.