第95回日本医療機器学会大会

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Presidential Invited Specail Lecture

大会長招聘特別講演 未来の医療機器

座長:安原 洋(東京逓信病院)

[大会長招聘特別講演] 未来の医療機器

吉田 晃敏 (旭川医科大学)

私が,旭川医科大学(以下本学)の学長に就任した2007年以降,建学の理念である「地域医療に根ざした医療,福祉の向上」を目指し,様々な大学改革に取り組んでいる.その中でも,特に顕著な成果を挙げているのが医学科の入試制度改革である.多くの卒業生を母校に残すため,2008年度から「推薦入試道北・道東特別選抜」10名,さらに2009年度からは「AO入試北海道特別選抜」40名の地域枠を設けた.この結果,在学生の6割が北海道出身者となり,2019年度 医師臨床研修マッチングでは58名の自大学出身者(全国1位)を母校に残すことができた.現在,この高い地元定着率を背景に,国や自治体等と連携しながら現実的な地域医療支援構想を計画している.
一方で,北海道内の医師数を増やしても,医師の偏在に伴う地域間の医療格差がすぐに解消されるわけではない.この問題に対し,本学ではICT(情報通信技術)を活用した2つの遠隔医療を推進している.
1つ目は,病院間を通信回線で接続し(有線),地方病院から送信されてくる患部の映像等をもとに診断を支援するというもので,私が眼科学講座の教授であった1994年に,約200km離れた関連病院と交信したのが始まりである.当時は,インターネットが普及しておらず,映像の伝送技術も今ほど優れてはいなかったが,国内初の試みに成功したことでメディアや医療関係者などから多くの注目を集めた.以後,着々と実績を積み重ね,1999年には本学病院に国内初の遠隔医療センター(私が初代センター長)を設立するに至った.そして現在までに,アメリカや中国,シンガポール,タイとも接続し,国内50,国外9(4ヵ国)の医療機関を結ぶ国際遠隔医療ネットワークを完成させた.この間,映像伝送に関しては常に最先端のICTを開発し続け,標準画質からハイビジョン,さらには患部を立体的に観察できる3Dハイビジョンへとグレードアップさせた.そして2018年,国内で初めてハイビジョンの16倍の解像度を有する8K医療画像システムを完成させた.
遠隔医療の2つ目は,2016年に本学が全国に先駆けて導入した「クラウド医療」(無線)である.これは,地方病院がインターネット上のクラウドに送信した患者情報をモバイル端末で閲覧し,診断や治療方針のアドバイスに加えて,当院への救急搬送の必要性有無の判断などもおこなえるもので,心疾患などが発症してから治療開始までの時間が最大で1/3に短縮されるなどの大きな効果を得ている.この「クラウド医療」を推進するため,国立大学としては初めて研修医を含む全医師(478人)にスマートフォンを配付した.さらに,世界へ発信するため,ニューヨークのプラザホテルで記者発表をおこなったところ,複数の国が高い関心を示し,特にアラブ首長国連邦においては王族,政府高官らが私をドバイやアブダビに招き,説明を求めるほどの大きな反響であった.
この2つの遠隔医療(有線,無線)は,少子高齢化や過疎化が急速に進行する今後の北海道にとって益々重要な役割を担うこととなり,また,本学が人口減対策の一環として教育・研究・診療の更なる国際化を推進する上でも有効なツールとなる.
こうした現状を踏まえ,本学では遠隔医療を重要な柱としつつ「Go to the Next Stage!」を実行するため,2020年に6項目の「新機軸」を打ち出した.すなわち,①世界で初めて開発した3D-8K医療画像システムの普及,②世界で初めて開発した網膜血流計の国際治験の開始,③海外の医療従事者を教育するための国際医療支援センターの設立,さらには次世代の地域医療支援体制を構築するための④医療ドローンプロジェクトおよび⑤医療アバタープロジェクトの開始,そして⑥「クラウド医療」のアフリカ展開である.本講演では,本学の「新機軸」を紹介する.