第95回日本医療機器学会大会

Presentation information

Presidential Lecture

大会長講演 次世代に向けて Go to the Next Stage!

座長:矢冨 裕(東京大学)

[大会長講演] 次世代に向けて Go to the Next Stage!

平田 哲 (旭川医科大学)

私と医療機器のかかわりは,学生時代の生理学実習で心電図や呼吸機能を測定するスパイロメータや,解剖学,病理学で顕微鏡を使用したのがはじまりでした.医療機器に特化した専門の講義は当時の医学部にはありませんでした.私が医師になった1980年代初頭では臨床工学技士,滅菌技師/士という職種もない時代であり,当時は使用する医療機器については,先輩医師や看護師,場合により業者の方に使用法を教えてもらった記憶があります.当時の手術室には手術用鋼製小物,無影灯,電気メス,心電図計,血圧計,シャーカステン,小さな高圧蒸気滅菌装置などはありましたが,外科医はその環境の中,場合により自前で麻酔をかけ手術をしていた時代でした.それから40~50年経過し,手術室には各種のエネルギーデバイス,生体情報システム,放射線画像,電子カルテ情報を映し出す大きなモニタなどが全ての部屋に常備され,診療科によっては,内視鏡手術機器,顕微鏡,補助循環,放射線診断装置,手術用ロボットなども置かれるようになりました.外科医が自前で麻酔をかけることもほぼなくなりました.材料部は中央化し大きな洗浄機器,滅菌装置を配置され,器材・機器の搬送法もいろいろ駆使された独立した組織になり,半世紀の医学の進歩で外科手術も大きく変わりました.当たり前のことですが,外科医はその進歩に合わせ,手術技量の進歩のみならず,安全確保に日夜勉強し続けなければなりません.
今や我々の周りには莫大な医療機器が日常的に存在し,現場の高いニーズのもと,1988年4月 臨床工学技士法が施行され,新たに臨床工学技士という職種ができました.スタート時には人工透析や人工心肺操作など限られた範囲での業務に見えましたが,現在では手術室,透析室からカテーテル治療室,高気圧酸素室,病棟,外来など病院全体を仕事の守備範囲とし,病院にとってなくてはならない職となりました.また滅菌技師/士は日本医療機器学会がおこなっている専門認定制度(第1種滅菌技師認定制度(2003年),第2種滅菌技士認定制度(2000年))が立ちあげられて,技術と知識の質があげられています.
以前から問題提起されてきた我が国の少子化,高齢者社会の対策のほか,近年の多発する自然災害や今年のような特発的な感染症パンデミックが起こる可能性の中,各職種で働き方改革も求められております.医師,技師(士),看護師の日常周辺業務をこなす職種以外にも,ICT(情報通信技術)とAI(人工知能)を効率的に現場とつなげられる職種など新たな職種なども必要になると考えられます.
これまで,私は材料部,手術部,医療安全管理部など中央部門の責任者と病院長を経験してきました.管理者としての経験から,本講演では病院経営において注意する因子,手術室における医療機器の課題,次世代に繋ぐ教育の3点についてお話ししたいと思っております.
今回,会長として,「Go to the Next Stage!」というテーマを立てました.我々はどの職種や企業においても日本の伝統のある技術や経験に基づき,技を次世代へ継承していかなければなりません.一方で情報量の増加など,社会の価値観も大きく変わってきておりますが,法令違反はもとより,社会的なコンプライアンスに違反しない,倫理に基づいた教育をしていかなければならない責務があると強く考えます.