[教育講演3] コロナ時代の病院設備・設計
コロナ禍において,現場で戦っておられる医療従事者の方々に心から敬意を表するとともに,深く感謝申し上げます.
新型コロナウイルス感染症(COVID19)は2019年12月以降全世界に拡散している.感染防止のため外出時のマスク着用や外出制限がおこなわれるなど,人と人との社会的接触が制限され,ワクチン接種がようやく実施されつつあるが,収束先が見えないまま日常生活にはかなりの制限が未だ課されている.しかしながら感染拡大対策に関する知見は徐々に増えており,病院建築設計者はその知見に基づいた合理的な建築設計をおこなうことが今後求められる.
病院は,一般的には平常時の医療行為を効率的におこなうことを最優先とした施設計画としている.そのため平面的な余裕がないのが現状であり,パンデミック時に即座に多くの患者の診察,入院患者の受け入れは難しく,かつ従来の医療行為を継続しながらの受け入れは不可能に近いものがある.その中で病院がどのように対応したのか,何を準備したのか.一般病床をコロナ対応病床にした例,既存病院をコロナ専門病院にした例,リース建材を利用した仮設病棟を設置した例などの事例を紹介し,平常時からパンデミック時への運用の切り替えを考慮した施設計画を考える.ここでは感染症対策に関するガイドラインの紹介とその施設要件,新型コロナ感染症に対応した病室,その実例などを紹介する.
1. 感染症対策に関するガイドライン
建築設計者が主に参考にしている「病院設備設計ガイドライン(空調設備編)」では病院内の清浄度をⅠ高度清潔区域,Ⅱ清潔区域,Ⅲ準清潔区域,Ⅳ一般清潔区域,Ⅴ汚染管理区域,拡散防止区域の5つのクラスに分け,クラス毎に必要換気量,陽陰圧の設定,フィルター性能などを定めている.
また,「新しい感染症病室の施設計画ガイドライン」では,感染症指定医療機関の施設基準が定められ,第1種感染症指定医療機関は「第1種病室」「第2種病室」を同時に持つことが望ましいとされている.「第1種病室」は接触感染,飛沫感染に加え,空気感染も考慮した施設である.前室を設けることで病室内を安定した陰圧状態に保ち,また病室内には専用のトイレ・シャワー室を設ける.空調は全外気方式が望ましいとされているが,空気の再循環方式を採用する場合はHEPAフィルター付再循環設備を設けることとされている.排気にはHEPAフィルターを設け,換気回数は6~12回/h以上とされている.第2種感染症指定医療機関は「第2種病室」を持つものとされ,主に接触感染,飛沫感染に対応した施設である.「第2種病室」は空気感染を想定しないため前室は不要で,換気回数は2回/h以上とされている.その他に特定感染症指定医療機関には「新感染症病室」「第1種病室」「第2種病室」を同時に持つことが望ましいとされている.新感染症は,感染経路や治療方法が確立していない場合が多く症状の経過も未知のものが多いため「第一種病室」における空気感染対策よりさらに万全な陰圧制御の可能な「新感染症病室」が要求される.
2. 新型コロナウイルス感染症(COVID19)対応病室
COVID-19の感染経路は,くしゃみや咳,会話などの際に生じる飛沫が目や鼻,口などの粘膜に付着したり呼吸器に入ることで,また汚染された環境に触れた手で目や鼻,口などの粘膜に触れたりすることによって感染する.したがって,患者の診療ケアにおいては,標準予防策に加えて,飛沫予防策と接触予防策を適切におこなう必要がある.
このことから病室の仕様としては「第2種病室」相当で対応可能と判断できるが,エアロゾル感染もあり得るとされていることから,病室内は陰圧を保てるようにする必要がある.
換気回数については,一般社団法人日本環境感染学会では6回/h以上おこなうことが望ましいというガイドラインが提示されている.
施設計画においては,平常時の運用からパンデミック時の受け入れ態勢に切り替える場合を想定した空調ゾーニングの設定や,各病室には専用の排気システムの追加設置が可能なバルコニーを設けるなどの施設計画が必要である.
新型コロナウイルス感染症(COVID19)は2019年12月以降全世界に拡散している.感染防止のため外出時のマスク着用や外出制限がおこなわれるなど,人と人との社会的接触が制限され,ワクチン接種がようやく実施されつつあるが,収束先が見えないまま日常生活にはかなりの制限が未だ課されている.しかしながら感染拡大対策に関する知見は徐々に増えており,病院建築設計者はその知見に基づいた合理的な建築設計をおこなうことが今後求められる.
病院は,一般的には平常時の医療行為を効率的におこなうことを最優先とした施設計画としている.そのため平面的な余裕がないのが現状であり,パンデミック時に即座に多くの患者の診察,入院患者の受け入れは難しく,かつ従来の医療行為を継続しながらの受け入れは不可能に近いものがある.その中で病院がどのように対応したのか,何を準備したのか.一般病床をコロナ対応病床にした例,既存病院をコロナ専門病院にした例,リース建材を利用した仮設病棟を設置した例などの事例を紹介し,平常時からパンデミック時への運用の切り替えを考慮した施設計画を考える.ここでは感染症対策に関するガイドラインの紹介とその施設要件,新型コロナ感染症に対応した病室,その実例などを紹介する.
1. 感染症対策に関するガイドライン
建築設計者が主に参考にしている「病院設備設計ガイドライン(空調設備編)」では病院内の清浄度をⅠ高度清潔区域,Ⅱ清潔区域,Ⅲ準清潔区域,Ⅳ一般清潔区域,Ⅴ汚染管理区域,拡散防止区域の5つのクラスに分け,クラス毎に必要換気量,陽陰圧の設定,フィルター性能などを定めている.
また,「新しい感染症病室の施設計画ガイドライン」では,感染症指定医療機関の施設基準が定められ,第1種感染症指定医療機関は「第1種病室」「第2種病室」を同時に持つことが望ましいとされている.「第1種病室」は接触感染,飛沫感染に加え,空気感染も考慮した施設である.前室を設けることで病室内を安定した陰圧状態に保ち,また病室内には専用のトイレ・シャワー室を設ける.空調は全外気方式が望ましいとされているが,空気の再循環方式を採用する場合はHEPAフィルター付再循環設備を設けることとされている.排気にはHEPAフィルターを設け,換気回数は6~12回/h以上とされている.第2種感染症指定医療機関は「第2種病室」を持つものとされ,主に接触感染,飛沫感染に対応した施設である.「第2種病室」は空気感染を想定しないため前室は不要で,換気回数は2回/h以上とされている.その他に特定感染症指定医療機関には「新感染症病室」「第1種病室」「第2種病室」を同時に持つことが望ましいとされている.新感染症は,感染経路や治療方法が確立していない場合が多く症状の経過も未知のものが多いため「第一種病室」における空気感染対策よりさらに万全な陰圧制御の可能な「新感染症病室」が要求される.
2. 新型コロナウイルス感染症(COVID19)対応病室
COVID-19の感染経路は,くしゃみや咳,会話などの際に生じる飛沫が目や鼻,口などの粘膜に付着したり呼吸器に入ることで,また汚染された環境に触れた手で目や鼻,口などの粘膜に触れたりすることによって感染する.したがって,患者の診療ケアにおいては,標準予防策に加えて,飛沫予防策と接触予防策を適切におこなう必要がある.
このことから病室の仕様としては「第2種病室」相当で対応可能と判断できるが,エアロゾル感染もあり得るとされていることから,病室内は陰圧を保てるようにする必要がある.
換気回数については,一般社団法人日本環境感染学会では6回/h以上おこなうことが望ましいというガイドラインが提示されている.
施設計画においては,平常時の運用からパンデミック時の受け入れ態勢に切り替える場合を想定した空調ゾーニングの設定や,各病室には専用の排気システムの追加設置が可能なバルコニーを設けるなどの施設計画が必要である.