大会長挨拶
大会テーマ
「現状を把握して
みんなでステップアップ」
第98回日本医療機器学会大会
大会長 深柄 和彦
東京大学医学部附属病院
手術部・教授
このたび、第 98 回日本医療機器学会大会の大会長を拝命しました東京大学医学部附属病院手術部の深柄和彦と申します。大正 12 年(1923 年)に設立した本学会の 100 周年にあたる令和5年(2023 年)に、大会長を務めることを光栄に存じ、ご選任いただいた会員・役員の皆様に御礼申し上げます。
今日の医学・医療の進歩はめざましいものがあり、日々、新しい治療法が開発され、患者さんの治療に役立てられています。再生医療や分子標的治療など、これからまったく新しい医療が展開すると誰もが信じてきた中での新型コロナ
ウイルス感染禍は、近代医学の礎を築いた消毒・滅菌・感染対策の重要性を全世界の人たちに改めて知らしめ、呼吸器や人工肺といった生命を支える医療機器がいかに大切なものかを認識させることになりました。
ワクチンの開発など医薬品・創薬の力が重要であることはもちろんですが、本学会の中心分野である医療機器の開発・管理、滅菌管理などの意義が社会の注目を集めていると言えましょう。コロナ禍を経て、本学会が飛躍の時を迎えると信じています。
医学・医療はこれまでひたすら前へ前へ、上を目指してきました。しかし、新規治療法のコストは莫大であり、それを支える医療保険制度は限界を迎えています。患者さんに良いものであればいくらコストがかかっても導入するべきという考えも見直さなければいけないかもしれません。これまでのサービス残業は当たり前、患者さんの命を守るためにはいかなる労苦も厭わないという医療従事者の姿勢も、働き方改革の中で大きく変えなければならないでしょう。それでも、患者さんに良質の医療を提供しなければならない。一見、矛盾して見えるこれらのことを将来にわたって継続するためには並々ならぬ創意工夫が必要になります。私は、医療機器がこの大きな変革のカギを握っていると思います。ひたすらマンパワーで対応してきたいろいろな医療の仕事を、効率的にしかも安全に軽減できる……そういう機器の開発が必要です。
このように医療機器の世界が飛躍の時を迎え、医療のパラダイムシフトが迫る中、われわれ人類が幸せな未来を築くには、まず現状を把握し、何が欠けていて何が求められているのか、何をしなければならないのかの気付きが必要と考えました。そこで、本大会のテーマを「現状を把握してみんなでステップアップ」とした次第です。医療の未来は誰か特別な人が与えてくれるものではなく、日々地道な研究に励むアカデミアの皆さん、医療に携わるすべてのスタッフ、素晴らしい医療機器を提供してくれる企業の皆さんが心を一つにして築き上げるものです。
本大会に、そういう心意気をもった大勢の方々にお越しいただくこと、現状を把握して未来を見据える素晴らしい発表・講演が多数寄せられることを期待しています。