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[64] 滅菌技術の医療現場への適用の歴史
―その起源と日本への導入―
医療現場における滅菌はいつから誰により始められたのか?その滅菌技術がいつから誰によって日本へ持ち込まれたのか?滅菌の歴史について調査した.滅菌技術は19世紀にリスター,パストゥール,シャンベラン,テリヨン,ベルクマン,シンメルブッシュといった英国,フランス,ドイツの医師・科学者らの功績により完成された.リスターはantisepticという消毒剤を噴霧することにより術野への細菌侵入を減らす試みを英国でおこなった.次に,手術器械や材料を120℃以上の湿熱によって無菌とするパストゥールが考え出したaseptic=無菌法の考えを,テリヨンが最初に実践した.世界初の実験器具用の蒸気滅菌器は,パストゥールの助手であるシャンベランにより発明された.無菌法の理論を臨床の現場にて完成させ,最初に論文に著したのはベルクマンの助手であるシンメルブッシュで,ドイツ外科学会の機関誌『Archiv für Klinische Chirurgie』に無菌法の考えに基づく滅菌技術を報告した.シンメルブッシュが完成させた手術器具用の蒸気滅菌器は,ドイツのラウンテンシュレーゲル社で製造された.日本では,東京帝国医科大学教授の宇野朗が1892年に留学先のドイツからこの製品を持ち帰っていることから,滅菌器が日本に最初にもたらされたのは輸入であるというのが定説となっていた.今回の調査で,九州大学病院の前身である県立福岡病院の初代院長である大森治豊が,ドイツ外科学会の機関誌に掲載されたシンメルブッシュの論文をもとに,1892年に滅菌器を自作していた事実が明らかとなった.今回,宇野と大森のどちらが先であったかは明確にできなかったものの,滅菌器の日本への普及について,輸入にのみ頼ったのではなく,輸入と同じ年に国内製造されていた事実が初めて明らかとなった.