11:25 AM - 11:55 AM
[教育講演5] 懸念される EU と国際標準組織の亀裂
―医療産業への影響と日本医療機器学会が果たせる役割―
新型コロナパンデミックで世界が100年に一度の危機にみまわれたことで日本の医療提供制度の問題が徐々に国民の目にも明らかになってきた.GDP世界第3位の日本がワクチンでさえ輸入に頼らざるを得ない実態は国家安全保障の問題でもある.一方でEC(EU政府)は域内で独自の産業政策を強化するために,特に医療産業分野ではMDR(medical device regulation)を通して制度強化を図っており,ISO,IECなど国際標準化組織との摩擦が生じはじめている.第1にEU域内の安全基準を先行させて,ISO,IECに要求事項の順守を要求する一方で,ISO,IECが発行した規格文書の版権をEU域内では認めない(EU域内で公的文書として発行される場合はメンバー国のみ無料でアクセスできる)という制度がEU法務官によって提案されている.これはISO,IECが結んだウイーン合意,フランクフルト合意を無視するもので国際標準の概念そのものを根本から崩しかねない.日本やアメリカのように,EU域外からの輸出国にとっては大きな障害になる可能性もある.ウクライナ,イスラエルなど国際緊張が高まる中で各国が自国の利益を優先する動きも増しており,中国も露骨に自国権益を優先させる中でISO,IECで活動を活発化させている.振り返って日本は国際標準化加速政策が強調される一方で,特に医療分野では省庁の縦割りが大きな障害になっている. 2023年6月に出された経済産業省の国際標準化加速モデルでも医療という言葉は出てこない.また,臨床医学会が国際規格に興味をしめさないために,JISとして採用された国際規格が日本の医療現場で大きな齟齬を生じる例も出ている.この背景の中で医療機器学会は産業界と臨床現場を結ぶ大きな組織であり,行政も巻き込んで果たせる役割は非常に大きい.