第99回日本医療機器学会大会

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Special lecture

特別講演3 鋼製器具はどう作られるか、そしてそのライフサイクル

Sat. Jun 22, 2024 9:00 AM - 9:40 AM 第3会場 (アネックスホール F205+F206)

座長:河村 秀樹(静岡県立こども病院)

9:00 AM - 9:40 AM

[特別講演3] 鋼製器具はどう作られるか、そしてそのライフサイクル

市川 洋一 (ミズホ㈱五泉工場 品質保証部品質管理課)

弊社は1919年の創業以来,長年にわたり培ってきたノウハウを礎に医療機器を開発・製造してきた.その一つに鋼製器具がある.鋼製器具は,手術する上で必ず用いられる道具で,数万種類ともいわれバラエティに富み,範囲が広い.また,手術室,病棟,外来など2万点以上保有する医療機関もあり,日々の管理業務にも負担がかかっている.ここでは,鋼製器具がどのように作られるか,およびそのライフサイクルを取り上げる.
鋼製器具の重要な要素はその材質である.鉗子・鑷子・持針器・剪刀など鋼製器具に求められる材質は,強さ・靭性・曲がらずに適度にたわむ・折損しない・腐食しにくいなど,繰り返し使用される環境に耐えうる材質が求められる.
1970年以降に,超音波洗浄機の普及や院内感染防止による強力な滅菌液,消毒液などの使用によって,鋼製器具が使用される環境はかなり過酷となり,その結果,発錆・折損などの事例や事故が発生した.弊社は,このような使用環境の中で器具類の性能向上を図るためには,若干の改良だけでは十分な対処は不可能と判断し,最も基本となる使用材料の研究を開始し,鋼製器具適材の開発を進めた.数年にわたる研究成果として鋼製器具に好適な高強度で靭性に優れ,十分な耐食性を兼備した材料を開発し,数多くの試作を経て現製品へ展開した.展開後は多くのデータを蓄積したが,材料に関するクレームは皆無で,本質的問題の一定の解決をみることができた.いまもなお当時のノウハウを継承している.
鋼製器具の製造工程として,持針器を例に紹介する.最初は素材を鍛造することからはじまる.鍛造とは,金属を叩くことにより圧力を加え,素材内部の隙間をつぶして結晶を細かくし,強度を高める加工方法で20工程に及ぶ.切削加工は,20工程に及ぶが,専用機械にて鍛造製品に整形加工を施す.仕上げ加工は,製品機能(合わせる・つかむなど)を実現する工程で,先端合わせ・ボックスロック合わせ・ラチェット圧力などの細かい調整がある.熱処理加工は,材料本来の性能(硬さと靭性)を熱処理で実現する.持針器の超硬チップ付けは熱処理と同時におこなうことで,チップが外れないように強固につけている.研磨加工は,表面を研磨して,形状をさらに円滑,美麗にする.研磨の種類は,鏡面・ヘアライン・梨地などがある.
本体表示は,ロゴマーク・商品コード・ロットナンバーに加え,個々に2次元コードGS1 Data Matrixでユニークなシリアルナンバーを刻印している.GS1 Data Matrixは2012年から順次製品に適用している.
修理は,故障・劣化箇所を修復することにより,製品本来の機能を復活させる.メーカによる修理ならば,製造方法を熟知しているゆえに適正な修理が可能である.
鋼製器具は,材質,作り方,病院での使用環境,保守,修理などに適応するかたちで現在に至る.日常的に使用され,また洗浄・滅菌を繰り返すライフサイクルの中で劣化が進むが,修理によって再生することは可能である.また,鋼製器具にシリアルナンバーを施し,システムで鋼製器具の履歴を管理し情報化することは病院や製造者にとって有用である.
最後に,これまでに工場を見学された医療従事者の方々が大いに関心を示された製造工程を動画を用い事例として紹介する.本講演を通して,鋼製器具を取り扱う方々の理解を深めていただくとともに,さらに興味を持っていただくことで,日々の業務の一助になれば幸いである.