[S3-1] 発達障害におけるMRSの有用性と神経伝達物質プールの測定について
臨床上最も応用されているproton MRSでは、小児の発達に応じて代謝物の濃度が変化することが知られている。画像では、髄鞘化の変化が1~2歳程度まで認められることが知られているが、N-acetyl aspartate(NAA)等の代謝物の変化はもう少し後まで認められる。正常発達の小児にくらべて発達障害における代謝物濃度の違いが認められ、自閉症においても同一年代の正常小児にくらべて様々な脳部位でNAAの低下が報告されている。一方で、高機能自閉症の一つとされてきたアスペルガー症候群では、同一世代とくらべてNAAの高値を報告した研究も認められる。 従来からProton MRSでは、NAAをニューロンの発達の指標として評価が行われてきたが、最近では神経伝達物質に関連する代謝物としてグルタミン酸(Glu)やGABAを指標とした研究も増加している。これは3Tesla以上の高磁場装置の普及によって、MRSの感度や定量性が向上してきたことも関連していると考えられる。GABA等の濃度の低い代謝物については、通常のPRESS等のシークエンスのみならず、信号編集や2次元スペクトル等の手法による精度向上を図った測定も行われている。自閉症ではGABA-A及びGABA-B受容体関連遺伝子の異常の報告があることから、GABA作動性抑制系神経の発達異常が病態の一因と考えられている。我々は自閉症症例において、前頭葉と基底核のGABA及びGluを測定し、正常小児にくらべて前頭葉のGABA濃度が低く、GABA/Glu比が低値となっていることを報告し、その後も同様の報告によって自閉症におけるGABA/Glu割合のアンバランスの存在が明らかになってきた。 Proton MRSで観察されるGABAやGluはすべてが神経伝達物質として使われているわけではないが、代謝物プールとして神経伝達機能の恒常的なバランスを反映する指標としえ利用できることが示唆される。今後MRSは、非侵襲的な神経伝達機能の指標として、多くの疾患で有用性が報告され、病態解明と臨床診療の両面で活用されることになると期待される。