[S4-5] 肝のIVIM
Intravoxel incoherent motion (IVIM) はボクセル内の(一貫性のない)ランダムな動きで、拡散強調像のコントラストの起源とされる。言い換えればIVIMが大きい組織と小さい組織の間にコントラストをつけるのが拡散強調像である。拡散強調像の有用性はいまさら強調するまでもなく、肝では特に肝転移の診断に欠かせない。その一方で、なぜ拡散強調像で高信号になるのか、拡散強調像ではいったい何を強調しているのかをクリアに説明することはできていない。もちろん、「分子拡散」がコントラストの主役であることは間違いない。しかし実際は、分子拡散の他にも拡散強調像の信号に寄与する因子は多く存在する。その代表が「微小血管内の血流(ここでは灌流と呼ぶ)」である。一般に「高いb値を用いれば灌流の影響が排除できる」と仮定されている。しかし、厳密な意味ではどんなにb値を高くしようとも灌流の影響を無視することはできない。そこでADC値の代わりに2種類の拡散係数を定義して、分子拡散と同時に灌流も定量しようという試みが広がりを見せている(IVIM モデル)。実際のフィッティングをみるとIVIMモデル(biexponential)は実測値を概ね説明可能である。しかし高b値領域(b>1000)まで考えた時には、予測式と実測値には乖離がみられる。b値定義の前提である自由拡散が生体内では成り立たないためである。細胞膜などがあり自由拡散が仮定できない生体内では、高b値領域において補正が必要である。Diffusion Kurtosis imaging はその一つで、自由拡散からの逸脱の程度をK値で推定する。その他にもtriexponential modelやstretched exponential model などが提唱されている。このように拡散強調像をどのように定量化するかの報告は多く、肝における臨床応用で一定の有用性が示されつつある。しかしその一方で、定量性に関する限界も言われている。特に肝では呼吸や心拍動による影響が大きい。また、ノイズの影響による定量値のバラつきも無視できない。この発表では、これまで報告された臨床応用をレビューしつつ、交絡因子やノイズの影響を議論し、肝拡散強調像の課題について考えたい。