第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

オンデマンド配信 » 口述発表

基礎系

[S1-04] 慢性期右片麻痺患者がどのように社会と相互作用しているかの一考察 ー 第三報 ー

*加藤 祐一1、上田 将吾1、山中 真司2、吉田 俊輔1、高木 泰宏1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション、2. 結ノ歩訪問看護ステーション東山)

【はじめに】
 前回の本学会で身体機能が弊害となり社会と繫がりきれず葛藤していた症例を報告した.その後,症例は身体機能に捉われず,社会に対して好印象を持ちながら,積極的に社会と相互作用していた.慢性期右片麻痺患者と社会の関係性について考察したため報告する.

【対象と方法】
 対象は50歳代男性.左被殻出血にて右片麻痺と失語症を呈し,Br-sはⅢ-Ⅲ-Ⅲであり,介入期間は介入後,約5年が経過した後の1年間であった.方法は対象に半構造化インタビューを実施し,音声データを元にトランスクリプト化し,各々にテーマを設定した.各テーマ間の結びつきを発見し,さらに上位テーマを設定する方法で分析を進めた.テーマ設定と分析は5名の質的研究経験者と共に行った.分析はHeideggerの概念である“現存在が世界の中で生きた時間や経験に接近するには解釈によるほかないとした,解釈が先行理解に基づかざるをえない”とする考え方を踏襲し分析を行った.

【結果と考察】
 ジンメルによると,社会圏が拡大する程,個人が自立すると考えられている.症例は<頭がクリアになってきている実感>と共に,合格率30%の検定試験に合格したことから,自立するという思考が強くなった.また,<健常者以上に出来たという実感>が得られ,<社会で普通に活動出来ている経験>となった.そして<就労のための資格取得>という目標も出現した.社会は諸部分の実在的相互作用の結果であるに過ぎない(阿閉, 1979)とされ,症例は社会との相互作用を繰り返し,社会圏を拡大しているように考えられる.以前は身体に対して<リハビリを実施しないといけないと思う身体>だったが,社会圏の広がりと共に<不安に思わない身体>へと変化し,<障がいは普通>という思考となっていった.ジンメルは,人間は物事を結合する存在であり,同時にまた,つねに分離しないではいられない存在とし,社会において,個人は結合と分離を繰り返すとしている.症例は<障がいは普通>としながらも,社会と結合し,そして自立という分離を繰り返している.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本研究の主旨,プライバシーの保護について説明し同意を得た.