第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(上肢)

[S2-02] 左後部放線冠梗塞により手指優位に重度感覚障害を呈した症例

*空野 楓1、柏田 夏子、石橋 凜太郎1、市村 幸盛1 (1. 村田病院)

【はじめに】
 感覚障害は単独に存在しても深刻な運動障害を引き起こすとされている(Xerri.1998)。今回、重度感覚障害を呈し、生活場面での右手の使用を認めなかった症例を経験した。体性感覚誘発電位(SEP)では予後不良だったが、接触情報の予測をもとにした介入を行い、生活場面への汎化を認めたため報告する。

【症例紹介】
 70歳代右利き男性。診断名は左後部放線冠梗塞であった。第4病日のBr.stageは上肢手指Ⅴ、簡易上肢機能検査(STEF)は右29点であった。SEPはN 20のピークが消失し、感覚機能は表在・深部感覚ともに手指優位に重度鈍麻していた。Motor Activity Log(MAL)はAOU・QOM0点であり、生活場面での右手の使用は認めなかった。物品把持では「弾いて摘めない」と内省が得られた。一方で、予測情報をもとに注意を向けると手指の知覚は可能で、介入課題後の物品操作では一部改善を認めた。

【病態解釈と介入指針】
 本例は重度感覚障害により、物品把持時に過剰出力を認め生活での不使用が生じていると考えた。注意機能が感覚機能に与える影響として、注意レベルの変化に応じて感覚入力に対する賦活領域が変化する(井口ら.2011)と報告されている。予測や注意を用いることで知覚精度が向上したことや、介入課題後の物品操作に改善を認めたことから、接触情報の予測を用いて注意を向けることで手指への知覚を促し、視覚代償を含む運動戦略と、生活場面での右手の使用に改善が得られると考えた。

【介入】
 第8病日から3週間は予測情報を用いて注意を向けながら受動的感覚練習を行い、その後3週間は能動的感覚練習を行った。視覚下での物品操作練習は継続して行った。

【結果】
 第45病日のBr.stageは上肢手指Ⅵ、STEFは右64点となった。SEPは変化なく、依然として重度の感覚障害を認めていた。MALは AOU3.46点 QOM3.53点となり、生活場面での右手の使用にも改善を認めた。物品を弾く所見は消失し­「柔らかく持てば取れる」という内省が得られた。

【考察】
 感覚機能自体の改善には至らなかったが、接触情報の予測をもとに体性感覚に注意を向けた運動制御によって、内省も変化し、物品操作能力や生活場面での右手の使用に改善が得られたと考えた。

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本発表に際し、本人に趣旨を説明した上で同意を得た。