Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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一般演題

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神経系(上肢)

[S2-03] 知覚仮説に着目した介入により病識の変化が得られた重度感覚障害例

*平見 彩貴1、寺田 萌1、市村 幸盛1 (1. 村田病院)

【はじめに】
 体性感覚フィードバックは,筋出力の調整や運動遂行時のエラー検出などの役割を担っている.そのため,体性感覚障害を有する脳卒中後症例は過剰出力傾向を示し円滑な運動が困難となりやすい(嘉戸,2014).今回,重度の感覚障害を有しながらも自己の病態に対する気付きの乏しさを認めた症例に対して,病態理解の促進を意図した介入を行い生活行為の改善が得られたため報告する.

【倫理的配慮】
 発表に関して症例に口頭で説明し,同意を得た.

【症例】
 右中心後回の脳梗塞を発症した80歳代女性.発症時のBRSは左上肢手指Ⅴ,表在および深部感覚は重度鈍麻レベルであった.STEFは41点で物品操作時に肩甲帯から手指にかけての過剰出力を認め,それに伴い上腕部に痛みを生じていた.感覚障害そのものに対する気付きは乏しく,自己の病態を「力が入り過ぎてしまう病気」と記述した.痛みの改善を図ることを第一優先とし,視覚制御での物品操作練習によって発症約1.5カ月後に上腕部の痛みや過剰出力は一部軽減し,STEFは72点となった.しかし,生活場面では上衣の首元のボタン操作において左手でボタンに触れることに時間を要する,右手で操作しているモップに左手を添えようとすると空振りするといった体性感覚障害に由来したエラーが残存していた.

【プロフィールの特徴と病態解釈】
 症例は筋出力量に注意を向けやすく,加えて,セラピストの「力を抜いて」などの言語をそのままに使用する傾向があり,自己の言語で知覚仮説を立てることが困難であった.そのため,エラーの原因を体性感覚障害ではなく二次的に生じた過剰出力と認識していた.よって,課題の遂行においては感覚情報を得ることの必要性を経験させながら,セラピストの教示ではなく自己の言語で試行錯誤することを促す必要があると考えた.

【介入】
 課題を遂行するために必要な身体運動や得られる感覚情報などを言語化させながら,視覚遮蔽下での物品操作課題を1日2時間,7日間実施した.

【結果と考察】
 発症2カ月後,STEFは82点となった.生活場面ではボタン操作に要する時間が短縮し,モップ操作では一度で左手を添えることが可能となった.物品操作時の過剰出力は軽度残存したが,自己の病態については「感覚が悪い病気」という記述へと変化した.自己の言語での知覚仮説が適切な病態理解を促進し,生活行為の改善をもたらしたと考えられた.