第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(上肢)

[S2-04] 洗濯物を掴み損ねる右手
ー 失語・失行症を伴う重度感覚障害症例への介入 ー

*池田 尚輝1、村上 順哉2 (1. ヴォーリズ記念病院、2. ぼだいじ訪問看護ステーション)

【はじめに】
 今回,失語・失行症と感覚機能障害を呈した症例へ介入を行った.異種感覚統合の内,視覚情報-体性感覚情報の情報統合へ向けた介入を行い良好な結果を得たため報告する.

【症例紹介】
 左M1閉塞を認めた70歳代女性.夫との2人暮らしで家事全般が病前の役割であった.発症後9週目より介入を開始.BRS右上肢Ⅳ・手指Ⅳ,表在・深部感覚ともに重度鈍麻を認めた.感覚性・運動性失語と注意障害を認め,神経心理学的検査は困難であった.行動観察上,単語の理解やYes/Noでの表出は曖昧であり,注意の転換・分配の障害,空間性の錯行為を認めた.ADL見守りレベルで麻痺側上肢の使用頻度は低く,閉眼での麻痺側手指の集団屈曲・伸展が困難など、評価上で有している運動機能以上に動作の拙劣さが観察された.目標であった両手で洗濯物をたたむ動作の際は右手での掴み損ねが頻回であった.

【病態解釈・治療仮説】
 症例は体性感覚情報と言語情報の変換が困難である一方で,視覚情報と体性感覚情報の変換は課題への理解が比較的良好であった.頭頂連合野は視覚情報と体性感覚情報の統合が行われるとされている.掴み損ねが異種感覚統合のエラーによって生じていると考えると,損傷が認められていなかった背-背側皮質視覚路を用いて頭頂連合野を賦活することで,視覚情報と体性感覚情報の統合が促進され,掴み損ねが軽減するのではないかと考えた.
 背-背側皮質視覚路はプレシェイピングと関連性が深いとされているため,本人に馴染みのある野菜のレプリカを使用し,プレシェイピングを用いた視覚情報-体性感覚情報の統合促進を図った.初めに手の構えの写真-対象物品で視覚情報-視覚情報の比較照合を行い,次に対象物品に合わせてプレシェイピングを行うなど視覚情報-体性感覚情報の比較照合を実施した.

【結果】
 2週間後,閉眼での手指の集団屈曲・伸展やBRSⅣレベルでの分離的な手指操作が可能となり,両手で洗濯物をたたむ動作の際の掴み損ねの軽減を認めた.

【考察】
 言語を用いての介入が困難な症例に対してプレシェイピングを用いた異種感覚統合の訓練を行う事で,背-背側皮質視覚路からの視覚情報伝達,頭頂連合野での視覚情報-体性感覚情報の統合処理の賦活や体性感覚情報の改善促進が行われたのではないかと考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 発表に対して本症例と家族に口頭での説明を行い,同意を得た.