第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-01] 重度感覚障害のため実際の身体と思っている身体が異なっていることに気がついていない右延髄梗塞症例

*沖田 学1、國友 晃1、前田 みはる1、田島 健太朗1、松村 智宏1 (1. 愛宕病院脳 神経センター ニューロリハビリテーション部門)

【はじめに】
 身体の実感(身体所有感)は時空間的な整合性により成立し、運動の実感(運動主体感)は運動意図と運動結果を照合して成立する。これらは実存の感覚情報を起源としている。今回、感覚障害により身体や運動結果を認識できていないにも関わらず身体感覚がわかるかのように発言した症例について報告する。

【症例紹介】
 症例は右延髄梗塞により左側に重度感覚障害と運動麻痺(全てBr.stageⅣ)を呈し1ヶ月経過しリハビリ目的で入院した70歳台女性である。来院時は車椅子介助レベルで、急性期ではオルトップ装具で平行棒介助歩行練習を行っていた。表在感覚は触れた有無や場所を間違うが「わかる」と発言した。深部感覚は他動で足を前に出すと「後ろに動いた」とハッキリと方向を誤認し感覚があるかのように振る舞った。しかし、身体所有感と運動主体感の7件法の質問では両方で-2(ほとんど感じない)であった。高次脳機能障害は動作観察で感覚性の左身体失認を認めた。

【病態解釈】
 症例は脳幹の伝導路障害のため感覚Feedbackを障害されたが運動意図や予測の機能が保たれているためにTop down優位な身体の解釈(認知)を行っていると推察した。その原拠として接触位置や運動方向が間違っていても躊躇なく「わかる」と誤認した。意識すると感じないことをわかるが意図したイメージが強く実際との照合ができないため、即答では身体位置や運動を誤認してしまう。そのため、運動結果(身体)を見て認識し、その後閉眼してイメージすることを認知運動課題の内因とした。

【認知運動課題と経過】
 課題は座位立位での脚の左右比較や左脚を伸ばした方向とつま先の高さを認識したり、介在物を踏みしめた実感を得たり、下肢形態を認識して行動する課題を実施した。開始後1週間で背屈を伴う振り出しができるようになり装具がいらなくなった。4ヶ月後には下肢関節運動の有無を少し認識できた(1~2/5)。しかし、重度感覚障害が残存したため視覚による代償で運動の結果を認識した。身体所有感が2(かなり感じる) 運動主体感が1(多少感じる)となった。四脚杖歩行を獲得したが歩行速度が遅かった。

【考察】
 予測により身体を誤認したが視覚情報により大まかな下肢形態認識や存在意識が向上したため身体感覚が改善したと推察した。

【倫理的配慮】
 発表と撮影の説明をして同意を得た。また、個人情報の匿名性を遵守した。