Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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神経系(下肢/体幹)

[S3-05] 立ち上がり時に麻痺側足底接触情報構築が困難となる左片麻痺者に対して実施した訓練の一例
ー 視覚と体性感覚の統合に着目して ー

*安田 真章1 (1. 東京大学医科学研究所附属病院)

【はじめに】
 行為は常に多感覚性を有しており、単一感覚モダリティによって遂行されることはない。そのため多感覚的な統合を図る訓練を検討することは行為の改善を図るために有用である。今回、立ち上がり時に麻痺側足底接触の認識が困難となる左片麻痺者に対して行った訓練の一例として、視覚と体性感覚の統合を図った訓練について紹介する。

【症例紹介と病態解釈】
 50代男性、交通事故によって右前頭・側頭・頭頂部の急性硬膜下血腫および脳挫傷によって左片麻痺を呈した。発症から約1年半後に自宅退院となるが、起居動作や移乗動作には介助を要していた。その後、介助量の軽減および歩行の獲得を希望されてリハビリ介入の継続を行われた。Br. stageは下肢Ⅱ、感覚は表在感覚および深部感覚共に中等度~重度鈍麻を呈しており、左足関節背屈角度は-10°であった。介入当初は起居動作の獲得を図るために主に体幹の接触情報の構築、身体の傾きに伴う荷重感覚情報の構築を図っていた。一方で左下肢のイメージにも変質がみられ、「左脚は1本の枝みたい」と記述していた。そこで左下肢へ接触位置に関する情報の構築を図っていくことで、徐々に左下肢を自己の身体として認識できてきたが、立ち上がり時に左足底が非接地であっても足底が接地していると誤認することが多かった。身体を自己のものとして認識する身体所有感は視覚と体性感覚の時空間的な整合性によって生まれる(Ehrsson. 2004)。つまり本症例は身体所有感に変質を呈していたと考えられる。

【訓練の一例】
 視覚と体性感覚間における時空間的な整合性を図る訓練として、症例は端坐位にて左下肢をタオルなどで覆い隠し、近くに短下肢装具を左下肢を模した物として設置し、装具への注視を要求しつつセラピストは装具と左下肢を同時にもしくはタイミングをずらして地面に接地させた。その時に症例には装具と左足が同時にもしくはズレて着いたかを答えてもらった。本訓練介入後から徐々に立ち上がり時の左足底が接地状態で保持することが可能となってきた。

【考察】
 今回実施した訓練は身体所有感生成に必要な要因である視覚と体性感覚の時間的な整合性を得られる訓練であったと考えられる。そのため徐々に立ち上がり時に左足底の接地も得られてきたと思われる。

【倫理的配慮、説明と同意】
 本症例には、今回の発表に関する説明と同意について、書面にて了承を得ている。