第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-06] 両足動作の情報構築に向けた傾斜板の活用
ー 脳梗塞右片麻痺患者への実践報告 ー

*高見 宏祥1、横山 航太1、木村 正剛2 (1. 医療法人中山会 新札幌パウロ病院、2. 北海道こども発達研究センター)

【はじめに】
 Zernitzは両足動作の訓練の中で,患者さんが両足同時に考えなければならない状況に追い込み,またその両足が相互依存して情報を提供できるような状況にしていくと述べている(Advance2019).今回,傾斜板を使用した両下肢の空間課題に改良点を加えたことで,両足の相互的な関係に改善がみられた症例について報告する.

【症例】
 左放線冠梗塞による右片麻痺を呈した60歳代男性.発症後約2ヵ月の時点でBr.stage上肢Ⅴ-手指Ⅴ-下肢Ⅴ,深部覚が軽度鈍麻であった.ADLは左上下肢を優位に使用し自立.歩行は「右足がどこに行くかわからない」と記述し,右側到達期にクローヌスが出現し,膝関節伸展不十分で歩幅が狭く,同時期の左側推進期も足底全面接地となり円滑な重心移動が困難であった.認知機能は保たれており,麻痺側の接触・空間課題は識別可能.傾斜板を使用して両下肢を同時に動かし両踵間の距離を問う空間課題では,正答するが「右側が前に2つ、左側が後ろに1つ」など,両下肢それぞれを開始前の位置の記憶から比較して解答している様子がみられた.

【病態解釈・治療仮説】
 本症例は,認知・身体機能は比較的保たれているが,左側優位の代償的な行為を選択し続ける結果,左側の情報に偏ってしまい両足の相互的な関係を築きにくくなっていると考えた.介入として,両足の空間情報を両足同時に相互的な関係性を再構築させる訓練が必要であると考えた.

【訓練と結果】
 上記で述べた両下肢の空間課題の改良点として,傾斜板の下に滑り易くする為にタオルを敷き,左側前足部を接地させたまま傾斜板自体を後方へ引いた.同時に右踵を前方へ移動させ「左のつま先と右の踵はどれくらい離れているか?」の問いを立て実施した.結果,「左足の加減で右足の距離が決まる」といった両足間の関係性に注意を向けた解答が得られた.実際の歩行においても,クローヌスが軽減し対側の推進期で踵離地が出現し重心移動が改善された.

【考察】
 左側の情報に偏った行為を選択してしまう症例に合わせて,基準となる傾斜板自体を動かすことで,両足同時に注意を向ける状況をつくった.また、歩行周期を類似させた難易度に設定して運動イメージを想起させたことで,歩行の相互的な関係性に関する記述がみられ,歩行の改善に繋がったと考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本症例には書面にて説明し同意を得た.