第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-08] 右延髄外側症候群および両側小脳梗塞によりlateropulsionが遷延した症例の立位・歩行動作獲得に向けた介入

*岩崎 拓也1、菅沼 惇一2、千鳥 司浩2 (1. 大垣徳洲会病院リハビリテーション科、2. 中部学院大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

【はじめに】
 lateropulsion(LP)とは、不随意に一側に身体が倒れてしまう現象で、延髄外側症候群に併発することの多い姿勢定位障害である。予後は比較的良好で2週間程度で自立歩行が可能とされる。今回、右延髄外側症候群および両側小脳梗塞によりLPが遷延し、立位・歩行障害を呈した症例に介入し改善を認めたため報告する。

【症例紹介】
 70歳代前半の女性。右延髄外側症候群、両側小脳梗塞と診断され、前院にて保存的に加療後、第41病日に当院へ転院。初期評価時、筋力は右上下肢3~4、左上下肢4、感覚障害は左上下肢に軽度の温痛覚障害を認めた。運動失調は右上下肢優位に認めSARA21点。立位・歩行はワイドベースで右後方へと傾き把持物なしには困難であった。この際の内省報告として「右側に自動的に引っ張られるような感じ」「右足がふわふわして浮いているような感じ」との言語記述が聞かれた。BLS6点、FBS6点であった。
 
【病態解釈】
 本症例のLPが遷延した原因として、延髄外側梗塞により前庭脊髄路と脊髄小脳路が損傷されたことに加え、その投射先でもある小脳にも梗塞が生じた影響が考えられた。これらは共通してLPに関連する領域であり、本来は無意識下での姿勢制御に関与している。本症例ではこの経路での情報処理が困難となった結果「右側に自動的に引っ張られるような感じ」との経験に繋がったと解釈した

【介入と結果】
 病態解釈に基づき、体性感覚に注意を向けることで立位・歩行時の垂直性の学習を図ることを目的とした。まず座位・立位で足底に対するスポンジおよび不安定板を用いた認知課題を週6回の頻度で60分間実施した。これらが可能となった後に立位での左右の荷重量識別課題を実施した。
これらの結果、第102病日で筋力は両上下肢4、SARA12点、BLS2点、FBS27点と改善を認めた。立位保持は手放しで見守り、歩行も歩行車見守りとなり、内省報告としては「右足で踏ん張れるようになった」と変化した。

【考察】
 今回LPが遷延した症例に対し、足底圧および荷重感覚を用いた認知課題を実施した。これらにより、皮質脊髄路を中心とした意識的な運動出力が、足圧変化や荷重量に基づいて適切に学習され、立位・歩行能力向上に寄与したと考える。

【倫理的配慮(説明と同意)】
 ヘルシンキ宣言に基づき、症例には発表の主旨を説明し同意の下、当院倫理委員会の承認を得た。