第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-09] 1回の訓練における第三者観察の比較を用いた訓練の質的分析
ー 複線径路等至性モデルによる検討 ー

*高木 泰宏1、上田 将吾1、山中 真司2、吉田 俊輔1、加藤 祐一1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション、2. 結ノ歩訪問看護ステーション東山)

【はじめに】
 自己と他者の歩行の比較が困難な対象者に対して第三者観察の比較を実施し、1回の訓練の中で自己と他者の類似と差異の認識が可能となった経験をした。この訓練場面について質的に分析したため、報告する。

【対象】
 対象は遺伝性痙性対麻痺と診断され、11年経過した20代前半女性とした。歩行時、常に骨盤前傾し、体幹の重量によって前方への推進力を作り(普段の歩行)、下肢にて重量を知覚できない状態であった。分析対象とした1回の訓練は普段の歩行と下肢から前方へ出す歩行(一般的な歩行)の第三者観察を比較することと第三者観察に至るまでの一連の過程であった。

【方法】
 訓練場面を録音し、逐語録を作成した。逐語録から複線径路等至性モデル(TEM)の概念(サトウ、2006)に基づいてTEM図を作成し、発生の三層モデル(Valsiner、2006)を用いて、分岐点について『価値-記号-行為』の変化を分析した。対象と内容の確認、修正を行うことでTEM的飽和に至った。

【結果】
 療法士から一般的な歩行を提示され、歩行を試していく『行為』の中で、『記号』として「下肢にて重量を知覚できることの発見」が生じた。しかし、自己は「病前の自分や他者とは違って異常な存在」という『価値』のため、重量が知覚できない普段の歩行が克服の対象となり、普段の歩行と一般的な歩行の差異を大きく感じるようになった。しかし、分岐点「自分にとっての歩行や重量の意味付けを行う」ことで、自己と他者の比較が可能となり、「下肢にて知覚する重量が固定されたものではなく、状況によって変化する」という自己と他者の類似を見つけ出した。「療法士の共感」が促進因子となり、分岐点「療法士が行う普段の歩行と一般的な歩行の模倣を観察する」をきっかけに、自己と他者の類似である「他者との経験の共有」や、差異である「自己の常識の発見」という記号が生じた。この時に自己は「自分にも他者と同様に基準があり、他者とズレがあるだけの存在」という『価値』へと変化した。

【考察】
 療法士の模倣を観察することによって、対象者は療法士の中に自己を投影できたため、自己と他者の比較が可能になったと考えられる。

【倫理的配慮(説明と同意)】
 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者と保護者に説明し、同意を得た。