第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-10] 体幹における身体図式の再構築を図り排泄動作の獲得を目指した一例
ー 認知理論に基づく体幹に対する機能回復訓練の初めての試み ー

*北川 優奈1、玉木 義規2、日下部 洋平3、本田 慎一郎4 (1. 公益財団法人近江兄弟社 ヴォーリズ記念病院、2. 医療法人社団仁生会 甲南病院、3. 公益財団法人 豊郷病院、4. (有)青い鳥コミュニティー)

【はじめに】
 重度な座位の崩れを呈する患者は,排泄動作の獲得に難渋する場面が多い.今回,排泄行為の獲得に向け認知理論に基づき体幹の機能訓練を試みたところ一定の効果が得られたため,報告する.

【倫理的配慮】
 本発表は説明を行い,書面で同意を得た.

【症例】
 心原性脳塞栓症を発症した90歳代女性.右利き.発症17日目より介入開始.Br-stage左上下肢Ⅰ,左上下肢及び体幹,臀部の表在・深部感覚重度鈍麻.MMSE28点と認知機能は維持されるも,注意障害を認めた.寝返りは体幹回旋が不十分で,起居は後方重心であり介助を要した.症例と家族はトイレでの排泄が希望であったが,症例の車椅子座位は体幹左側屈・右回旋位であり,端坐位は左前方に姿勢が崩れる状態であった.柱を見て姿勢修正を試みるが不十分であり,「左腕が重くて倒れる」と記述した.

【病態解釈】
 症例の座位姿勢は,分配性注意障害の観点からも体幹の体性感覚に注意が向きにくく,視覚に依存的であった.体幹の身体図式は主に視覚と体性感覚を統合し形成されるが,視覚代償が大きいと注意障害の影響を受けやすく姿勢の崩れにつながりやすいと考えた.体性感覚野における体幹領域は両側性ニューロンが多く存在し,体幹両側の接触・空間情報の統合を促し身体図式を再構築できれば,座位が安定するのではないかと仮説を立てた.

【訓練・結果】
 体幹を6分割(左右の肩甲帯,背部,腰部)した絵を提示し,触れた箇所を問う課題を行った.その後,背もたれで安定した端坐位で両肩甲帯前面に触れたスポンジの硬度を問う課題を実施した.
 片側ずつ接触すると正答できるが,両側同時の際は左の認識が乏しかった.過去の経験を想起し左右の比較を促す投げかけを行うことで,左側にも注意が向きエラーは軽減した.一月後,体幹左側屈が軽減し,数分間は静的座位が安定したため,トイレ座位訓練まで展開可能となった.また,寝返りや起居動作は体幹回旋運動が出現し介助量が軽減した.

【考察】
 当初,症例は視覚優位であったが,体幹の空間や接触情報に対する問いを投げかけ訓練を行った結果,自己身体に注意を向け座位の非対称性に気づきが得られ,安定した座位の獲得につながったと考えた.しかし,トイレ座位自立に至らなかった点は,介入初期より臀部圧情報と体幹の空間情報を関係づけた訓練が行えていれば,さらなる改善が図れたかもしれないと考え,今後の課題とする.