第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(下肢/体幹)

[S3-11] 脳卒中片麻痺患者に対する訓練課題において体幹の体性感覚情報に向ける注意の有無が座位バランスに及ぼす効果 
ー ABABデザインによる検討 ー

*横山 航太1、高見 宏祥1、斗沢 善行1 (1. 新札幌パウロ病院)

【はじめに】
 体幹の訓練は動作訓練などで無意識的に姿勢制御を促す介入が一般的である(Davis PM,2006)が、体幹は高次運動関連領野の制御を受けていることから体幹を無意識、四肢を意識的と分けるのは適切ではないという見解もある。今回、脳卒中片麻痺患者に対して、体幹に意識を向けさせずに姿勢制御を促す訓練(以下、無意識的訓練)と体幹の体性感覚情報に意識を向けさせる訓練(以下、意識的訓練)を実施し、後者でより効果を認めたため報告する。

【対象】
 70歳代前半の男性。左視床出血(発症92日)。Br-stage:上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅱ、端座位は左上肢支持にて見守りレベルだが、体幹左傾斜位で麻痺側臀部への荷重が不十分。動的座位は右後方へ倒れる様子がみられ体幹を支える介助を要した。

【方法】
 無意識的訓練として端坐位で左右への骨盤の傾きを伴う輪入れやADL練習を実施した。意識的訓練では不安定板の上に症例を座らせ、他動または自動運動で左右の傾きの距離の識別や下に敷いたスポンジの硬さを識別する課題を行った。無意識的訓練実施期間(A期)と、意識的訓練実施期間(B期)をそれぞれ1週ずつ交互に2回、計4週実施した。評価は座位でのファンクショナルリーチテスト(以下、FRT)を各期の開始時と終了時に計測した。効果判定は目視法を用いた。また、端坐位姿勢の評価として、正面から写真撮影し、両肩峰と両股関節を結ぶ線の水平性と垂直性の変化を観察した。

【結果】
 A期とB期の1回目、2回目をそれぞれA1、A2、B1、B2として示す。FRTの変化量はB1、B2後に大きい傾向にあり、A2では成績低下がみられた。A1後の端座位姿勢は体幹左傾斜位で非対称性を認めたが、B1後には左右対称な座位姿勢が可能となりA2、B2後もその効果は持続された。

【考察】
 体幹の運動制御は運動野や体性感覚野に存在する体幹に関与するニューロンが複雑に組織化されることで成されている。体性感覚野の体幹ニューロンの組織化に問題が生じれば、運動野に適切な体性感覚情報が送られないため、体性感覚野の体幹領域の再組織化が重要である(宮本、2018)。今回、意識的訓練により体性感覚の知覚情報処理過程に働きかけたことで、体幹の身体部位再現が再組織化され、座位バランスや座位姿勢が改善したと考える。

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本人及び家族に書面にて同意を得ている。