第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(その他)

[S4-01] 志向性に配慮した介入が身体表象の改善に奏功した末梢性顔面神経麻痺患者の一例

*壹岐 伸弥1、金 起徹1、知花 朝恒1、新田 麻美1、石垣 智也2、川口 琢也1 (1. 川口脳神経外科リハビリクリニック、2. 名古屋学院大学 リハビリテーション学部 理学療法学科)

【はじめに】
 知覚運動制御は,動機づけの増幅によって学習が促進される側面があることからリハビリテーションの臨床手続きにおいても重要である。本報告の目的は,身体表象の変質を呈す末梢性顔面神経麻痺患者に対し,志向性の向きやすい行為に配慮した関わりが有効となり得るか単一症例の経過から考察することである。

【方法】
 症例は左末梢性顔面神経麻痺を認めた60歳代後半の女性である。第24病日より当院を受診し,外来リハビリテーションを開始した。初期評価において,運動麻痺評価の柳原法4/40点,額および頬部の触覚識別の正答率30%,額および頬の運動覚の認識は良好。主観的運動機能や社会機能を含む質問紙票であるFaCE Scale日本語版は運動項目20%,顔の快適さ60%,口の機能60%,目の快適さ40%,涙管機能60%,社会機能90%と知覚運動麻痺が重度であったことから,病的共同運動を助長させないためにマッサージの指導および触覚鈍麻に対して触覚識別訓練を実施した。しかしながら,第157病日において柳原法22点と運動麻痺の改善を認めるも,症例から,“自分の顔ではないような,顔の上から泥を塗ったような硬くて重だるい感じがする”という身体表象の変質に関する訴えを継続して認めていた。また,麻痺側顔面のマッサージにて気持ちがいいと経験し,訓練前後で即時的に身体表象の変質の減少を認めたにも関わらず,自主訓練の定着に至っていなかった。一方,症例が吹き矢の趣味活動再開に意欲的であったため,矢を吹く場面を想定しながら病的共同運動を強く認めない範囲での自動介助運動を1回60分,計3回実施した。

【結果】
 第176病日には,柳原法28点,触覚識別の正答率80%,FaCE Scale日本語版の運動項目73%,顔の快適さ80%,口の機能90%へと改善し,“重だるさが減って自分の顔らしくなってきた”と身体表象の変質に関する訴えの減少を認めたため,外来リハビリテーションを終了した。

【考察】
 身体表象の変質を呈す末梢性顔面神経麻痺患者において,症例の志向性を活かした吹き矢活動を利用した介入は動機づけを高め,身体表象と知覚運動能力の改善に寄与する可能性が考えられた。

【倫理的配慮】
 症例には十分に説明を行い,同意を得ている。