第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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高次脳機能障害

[S5-01] 一人称記述の変化から見る言語情報処理システムの再構築 
ー 重度感覚性失語症例 ー

*木川田 雅子1、菊池 大一2 (1. 東北医科薬科大学病院 リハビリテーション部、2. 東北医科薬科大学医学部 老年神経内科学)

【はじめに】
 重度感覚性失語症例に長期介入を行い,言語情報処理システムの再構築と並行して一人称記述の変化が得られたため報告する.

【症例】
 60代,右利き,男性.左側頭葉~頭頂葉皮質に生じた心原性脳塞栓症で当院入院,発症1カ月で自宅退院し,外来STを継続した.

【言語機能】
 発症時,重度感覚性失語を認め,外部刺激に対する反応は乏しく,状況判断も不十分であった.新造語ジャルゴンにより表出言語による情報伝達は困難で,発話抑制も困難であった.発症3カ月時のSLTA「呼称」は4/20正答であり,「出ない」とのみ記述が得られた.

【病態解釈】
 外部刺激への注意減退のため対話行為のエラーへの気付きが乏しく,修正行為が得られず,一方的な発話行為を繰り返している,と考えた.

【方法と経過】
 1回40分,月2回の介入を4年実施.言語認知課題として行為写真4×2枚を用い,①視覚情報の照合,②視覚情報と聴覚情報の照合,③言語化,を実施した.課題①よりエラーを認め,視覚ガイドでSTとの相互作用へ注意を誘導しエラーへの気付きを促すと,フィードバックに対する言及が増えた.また散歩やテレビ鑑賞の際に自発的に音読に取組む様子が観察された.

【結果】
 対話の改善は発症3年時より認められ,発症4年時には中等度感覚性失語へ移行した.ジャルゴン発話の特徴は残存したが新造語の表出量は減少し,修正行為により推測可能な音韻性錯語の表出が増えた.同時に外部刺激の解読と状況判断,発話抑制も可能となった.SLTA「呼称」では5/20正答と変化はないが,制限時間外で目標語を産生することが可能となった.この語想起について「皆と同じは無理」と記述し,『音韻想起を伴わず産生する』という趣旨の記述も得られた.

【考察】
 本症例は言語機能系における行為受納器(発話行為の予測と結果の比較検証)が活性化されず,一方的な発話行為を繰り返していた.課題で行為受納器へ介入した結果,修正行為が獲得され語想起への注意が喚起された.また段階的課題設定による言語情報処理過程の学習が在宅での音読訓練に汎化され,視覚表象や表意文字を介した言語情報処理システムの再構築に繋がった可能性が考えられた.機能改善は発症3年以降に得られ,本症例では長期介入が有用であったと考えられた.

【倫理的配慮】
 本発表にあたり個人情報とプライバシーの保護に配慮し,症例とご家族より同意を得た.