Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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高次脳機能障害

[S5-03] 失行症患者における行為主体感の変化
ー 一症例による検討 ー

*松川 拓1、石橋 凜太郎1、下村 亮太1、河野 正志1、信迫 悟志2、森岡 周2 (1. 村田病院、2. 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

【はじめに】
 失行症では,行為主体感(Sense of Agency: SoA)に異常をきたす可能性がある(Pazzaglia, 2010)が,そのエビデンスを示した研究はほとんどない.今回,失行症患者1例を対象に,多感覚統合の評価である映像遅延検出課題(Shimada, 2010)とSoAの実証的評価であるSoA課題 (Keio Method,Maeda,2012)を用いて,介入前後のSoAの変化を検討したので,ここに報告する.

【症例紹介】
 症例は70代右利き男性.左内包後脚~放線冠出血を発症し,右片麻痺と観念運動失行を認めた.発症2ヶ月後,MMSE25,KohsIQ72.9,BADS19/24,Apraxia Screen of TULIA(AST)7/12(パントマイム模倣で錯行為)であった.

【SoAの評価と介入】
 映像遅延検出課題は2条件(他動: 視覚-固有受容覚,自動: 視覚-運動),7遅延条件(33~594msec)で実施した.本症例の遅延検出閾値は他動条件で236.8msec,自動条件で306.1msecであり,視覚-運動統合に低下がみられた.SoA課題は,11遅延条件 (0~1000msec)と3EPA(event prior to action: EPA)条件の全14条件で実施した.健常者では遅延の延長にともないSoAは低下するが,本症例では遅延の延長に伴うSoAの低下が認められず,誤帰属(過剰帰属)が認められた.手指模倣時の錯行為に対する内省は「変な(指の)形かもやけど自分でやった」であった.介入は,視覚-視覚,体性-視覚の情報変換課題を約1ヶ月実施した.

【結果と考察】
 介入後,AST9/12と失行症状の改善に伴い,遅延検出閾値は他動・自動条件ともに156.2msecとなり,視覚-運動統合に改善を認めた.また,SoA課題における主観的等価点は303.9msecとなり,誤帰属(過剰帰属)は改善した.一方,錯行為時の内省は変化しなかったことから,失行症患者では映像遅延検出課題やSoA課題の成績と内省が一致しない症例もいる可能性が示唆された.

【倫理的配慮】
 発表に際し,患者に本発表の内容を説明し書面にて同意を得た.