Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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高次脳機能障害

[S5-04] ADL訓練よりも模倣を用いた認知神経リハビリテーションが有効であった一症例

*塙 杉子1,2、井筒 孝憲3、太田 卓司3、中里 瑠美子4 (1. 学校法人日本教育財団 名古屋医専、2. 東北大学大学院医学系研究科 肢体不自由学分野、3. 医療法人純正会 名古屋西病院、4. 東京女子医科大学東医療センター)

【はじめに】
 行為が障害される症候の一つに失行(apraxia)がある.今回,失行様を呈した症例に対して,模倣を用いた認知神経リハビリテーションが有効であったため,ここに報告する.

【症例】
 70代後半,男性.歩行中転倒し右大腿骨頸部内側骨折を発症,5日目に右人工骨頭置換術施行される.翌日よりPT・OT開始され,2ヶ月後転院となる.合併症は腎不全と糖尿病.転院時,HDS-R:25/30 点.コミュニケーションは良好で,透析の状況や前職の内容などの会話も可能である.PTでは歩行の再獲得に向けた各種訓練,OTはADL 練習を主に実施していた.入院1ヶ月半経過後,「精神的にまいってしまった」との発言があり,自立していたトイレ動作で失敗が増加した.HDS-R:22/30点,標準高次動作性検査(SPTA)は習慣的動作,手指構成模倣,連続的動作,物品なし動作で著名な錯行為を認めた.

【病態解釈】
 当初より糖尿病性の末梢神経障害,手指の巧緻性低下,身体イメージ力や知覚低下は認めていたが,術後経過や動作・ADL練習は良好であった.退院が延長した頃,トイレ動作で衣類や手に便が付着する失敗を認めるようになり,行為を分析したADL練習では効果を認めなかった.これは失行(Heilmanの失行の分類で「空間的誤反応」が著明な観念運動失行タイプ)が原因で,左下頭頂小葉を含む左半球の視覚情報処理に関与するネットワークの関与が示唆された.そのため,認知神経リハビリテーションを用いた介入が行為障害の改善に繋がると考えた.

【治療経過】
 アプローチは視覚(写真と実物)と体性感覚(両上肢,両手指)を主に用い,模倣練習,言語による分析,左右弁別を行った.当初は物品なしパントマイムの位置・方向エラー(肩・肘・手),左右の誤りが著明であったが,最終的に模倣障害は改善し(正解率18%→97%),トイレ動作も改善し,自立に至った.

【考察】
 今回の症例は無意味動作での模倣障害が著明であり,Rumiati and Tessari’s (2002) two-route modelの直接ルートの障害ではないかと考えられた.視覚と体性感覚のマッチングの違いを“知る”・“学習”したことが,長期記憶やワーキングメモリの活性化に繋がり,トイレ行為の改善に繋がったと考える.

【倫理的配慮】
 本報告に対し口頭と書面で説明し,同意を得ている.