Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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小児

[S6-05] 機能性構音障害症例に対する異種感覚情報変換課題の試み

*稲川 良1 (1. 医療専門学校水戸メディカルカレッジ)

【はじめに】
 機能性構音障害とは,発声発語器官の形態・機能,聴力,言語発達に問題を認めず,原因を特定できない発話の障害である.今回,機能性構音障害を呈した症例に対し,視覚‐体性感覚‐聴覚間の異種感覚情報統合の視点から病態解釈と介入を試み,良好な結果を得たので報告する.

【症例】
 通常学級に在籍する10歳5ヶ月男児.主訴は「た行,だ行が言えない」であった.発声発語器官に器質的異常や運動障害はみられず,聴力や音韻分解・抽出にも問題はなかった.新版構音検査では一貫して/t/から/k/,/d/から/g/に置換しており,被刺激性を認めなかった.構音類似運動にて,「上下顎前歯の間から舌を平らに出し,閉鎖を作り破裂」が困難であった.口腔器官運動(模倣)では,「舌の突出」にて「べー」と発話し,下顎の下制・舌の後退・頭部の伸展がみられた.また,「舌で左右の頬の内側を押す」にて両頬を左右交互に膨らます運動がみられた.鏡を見ることを促すと,「嫌,見たくない」と拒否を示した.

【病態解釈】
 歯茎から軟口蓋への一貫した構音点の誤りは,顔面・口腔の随意運動の問題ではなく,舌運動における視覚‐体性感覚間の情報変換困難により,誤学習を招いたものと考えた.また,自己の口部・顔面運動の視覚的フィードバックに対する嫌悪感は,構音の再学習に影響を及ぼしている可能性があると考えた.

【治療介入および経過】
 舌運動について,①視覚‐視覚情報の変換課題(解読),②視覚‐聴覚情報の変換課題(解読),③視覚‐体性感覚情報の変換課題(解読・産生)を段階的に実施した.訓練頻度は,1回40分,月2回とした.訓練3回目に「舌の突出」の模倣が可能となり,訓練4回目には単音節での/t/の構音が100%可能となったため,④系統的構音訓練へと移行した.全14回実施後,新版構音検査を用いた再評価で誤りは消失した.日常会話でも構音の誤りを認めなくなり,訓練終了とした.

【考察】
 本症例において、視覚を基礎とする情報変換課題の改善にともない目標音/t/の産生が増加し,日常会話まで停滞なく改善が進んだことから,異種感覚情報統合の改善を目的とした課題が正確な構音産生に有効であったと考える.今後さらに,小児の機能性構音障害症例の病態解釈と介入方法について,検討していきたい.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本人および家族に報告の趣旨と内容を説明し,同意を得た.