第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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小児

[S6-06] 精神運動発達遅滞児の失行症状に対する介入
ー 行為の改変に向けた訓練の検討 ー

*田中 雄大1、田中 美紀子1、山口 裕以1、田中 将史1 (1. NPO法人 子どもの発達・学習を支援するリハビリテーション研究所)

【はじめに】
 pr obable DCDを呈する精神運動発達遅滞児に対して,食事行為の改善に向けた認知課題を実施した結果,行為に変化が見られたため報告する.

【症例】
 6歳男児.初語3歳前,現在も発音の不明瞭さは残存.ADLに大きな問題は無いが他者との感情の共有の苦手さや道具操作時の錯行為を認めていた.家や学校では食事時に服をよく汚すとのことであった.上肢の模倣検査における意味のあるパントマイムでは方向のエラーやBPO(身体物体化現象)を認め,DeRenziの検査では順序性エラーや保続を認めた. 物体に対する手の構えを視覚分析し,他者の意図を読み取ることは困難であった.食事動作の外部観察ではリーチ時に前腕回内・手関節背屈の運動が欠如した省略を認め,食物を掴んだ後に肘の代償として体幹を大きく前屈し食事をする様子が観察された.内部観察では「お箸で食べ物を掴んでお口君で食べに行く」という記述を得た.

【病態解釈】
 本児は単関節運動の認識に問題はみられないが,注意の対象が空間的・時間的に変化する行為では解離や錯行為を呈する.日常的な食事場面でも省略や代償による空間的・時間的誤反応を示した.要因として,本児が目的や意図を伴う行為において,多感覚情報処理や行為のシミュレーションの乏しさ,意図を共有することの困難さを挙げた.

【治療アプローチ】
 複数の食事動作を提示し差異の言語化を求めた.行為システムにおける時系列理解を促す目的で,食事場面を時間的に分割した行為カードを作成し並べ替えを求めた.行為のシミュレーションや行為の意図の共有に対して,色違いの皿を正面に並べ他動運動にて「どこに向かおうとしてる?」と問うことで運動イメージの想起に加えてセラピストと児童間での意図の共有を求めた.

【結果と考察】
 食事時の前腕・手関節による構えが見られ始め,また食べ物を口へ運ぶ際に肘で距離を調節できるようになり,体幹による代償の改善を認めた.また共感システムの構築により自己と他者の行為の比較が可能となり,行為の学習に繋がったと考えた. or obable DCDに対する介入においては,空間課題に加えて順序や時間経過を伴う時間性の課題,他者と行為の意図の共有を求める課題が重要だと考えられた.

【論理的配慮、説明と同意】
 本報告に際し本人,保護者の同意を得ている.