第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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整形外科疾患

[S7-01] 職業歴を活かした運動イメージを活用して得られた効果について
ー 重度の筋出力低下を呈した頚椎症性筋萎縮症症例の一考察 ー

*足達 紅美1、玉木 義規1、日下部 洋平2、本田 慎一郎3 (1. 医療法人社団仁生会 甲南病院、2. 公益財団法人 豊郷病院、3. (有)青い鳥コミュニティー)

【はじめに】
 重度の筋出力低下を呈した頚椎症性筋萎縮症(以下CSA)症例に対して,運動イメージ(以下MI)を取り入れた訓練が契機となり,元の職場へ復帰できる補助手レベルの回復に至ったため報告する.

【症例】
 50歳代男性.右利き.職業大工.左上肢挙上困難を主訴に発症から4ヵ月後に当院を受診し外来OT開始になった.CSA前角障害型,MMT三角筋2,上腕二頭筋2-,自動ROM肩関節屈曲50°であった.上肢挙上時は上肢・体幹に不必要な筋緊張が伴い,数回で過度な疲労を感じ,「上がらない」「重たい」と記述した.基本的な認知的要素は良好で,特に鉄パイプを持ち上げる職業的な上肢のMIは他と比較し良好であった.軽作業における補助手の獲得を目標にした.

【病態解釈と訓練仮説】
 MIの活用は症例の行為に必要な運動プログラミングを修正し,代償動作としての運動単位の動員異常の抑制,及び障害された筋の運動単位を動員するタイミングが同期化されることで,筋出力向上が期待でき,行為の変化へ繋がると考えた.

【訓練と結果】
 職業歴を活かしたMIを利用した.“鉄パイプを持ち上げる動作”を想起させると,「動きそうな感じがした」と行為予期の記述が得られた.そこで上記行為を参考にMIを想起させ,その後実際に得られた感覚フィードバックとの差を言語化させた.さらに注意を焦点化する部位を適宜教示しながら顔の高さの上肢挙上動作を自動介助から自動運動と難易度調整を行った.頻度は週1~2日,40分/回であった.2ヵ月後,MMT三角筋2+,上腕二頭筋2,自動ROM肩関節屈曲80°となり,パイプやコンパネを把持して運搬する補助手レベルに回復して仕事復帰を果たした.

【考察】
 MIを活用することは,運動プログラムを最適化へ向かわせる修正に有効であったと考える.その背景には認知過程の適切な活性化があり,とりわけ職業的な経験の想起という記憶の活性化,訓練前後の比較における言語化によるイメージの鮮明化,修正部位への注意の焦点化を図るための治療者の言語が活用されたと考える.また,訓練開始時に神経再支配が起きつつあったと推測され,上記時期にMI訓練を取り入れたことに意味があったと考える.重度の筋出力低下を呈した症例に対しても,筋出力向上の一助となり行為の回復に繋がる可能性が示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】
 本発表に関して説明し書面で同意を得た.