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[SL2-01] 「社会性」という視点からみた神経心理学と精神医学
複雑な社会関係の中で動物が生きていくために必要とされる様々な能力は、「社会認知」と総称される。そして、社会認知の神経基盤は「社会脳」と呼ばれることがある。扁桃体や前頭葉・側頭葉のいくつかの領域は、社会脳の代表である。「社会的動物」である人間では、この社会脳が高度に発達している。人間の脳は「社会認知」のためのさまざまな「アプリ」あるいは「デバイス」を搭載したスマホやパソコンに喩えることができるかもしれない。人間の脳に搭載された「社会認知アプリ」には、たとえば「他者の表情からその感情を読みとる能力」、「他者の立場にたってその心を読む能力」、「他者の気持ちに共感する能力」などがある。この喩え話をさらに続けるならば、多種多様な精神科の病気、脳損傷による症状は、それぞれがそれぞれに異なるアプリの不調、デバイスの故障とみなすことができる。そして、薬物療法、多様な心理療法、リハビリテーション技法は、それぞれが特定のアプリの不調に対する効果を狙ったものとみなすこともできる。不調をきたしているアプリと治療法がマッチしていれば治療はうまくいくし、マッチしていなければ治療はうまくいかない。万能の薬物療法や心理療法が存在しないのはそのためであろう。たくさんのアプリ・デバイスが搭載されていることは便利なことではあるが、「全知全能の神」が、包括的な設計図のもとに一挙に全部のアプリを最新ヴァージョンで人間の脳にインストールしたわけではない。それぞれのアプリは進化の中でその時その時の必要に応じてインストールされ、それぞれが個別にヴァージョンアップされてきた。そのため、複数のアプリが矛盾するゴールを目指して作動し、結果としてそれらが相矛盾し、システム全体がフリーズするということが起きることもある。いくつかの心理療法には、こうしたフリーズを解消する技法自体が組み込まれている。