第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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特別講演3

2021年10月24日(日) 13:00 〜 14:00 第1会場 (ライブ配信)

座長:園田 義顕(高知医療学院)

13:00 〜 14:00

[SL3-01] フォーカシングと認知神経リハビリテーション

*三村 尚彦1 (1. 関西大学)

発表者の専門分野は現象学である。現象学は、20世紀初めにエドムント・フッサールによって提唱された哲学思想であり、一人称視点にもとづいて体験を記述することから出発し、その具体的な事象に定位しつづけることをモットーとしている。それゆえ、哲学的思考としてだけでなく、さまざまな分野で方法論としても広く受け入れられている。
 カルロ・ペルフェッティによって提唱された認知神経リハビリテーションは、フッサールやメルロ=ポンティの現象学から少なからず影響を受けており、いわば現象学を方法の一部として採用したと言うことができるだろう。
 同じく現象学を受容し、それをさらに発展・展開したと捉えることができるものの一つにフォーカシングfocusing、フォーカシング指向療法focusing oriented therapy がある。フォーカシングとは、アメリカの臨床心理学者、哲学者であるユージン・ジェンドリン(Eugene Gendlin、1926—2017)によって提唱されたカウンセリング技法である。ジェンドリンはもともとシカゴ大学で、ディルタイの「生の哲学」や現象学を研究していたが、パーソン・センタード心理学、クライエント中心療法の創始者である心理学者カール・ロジャーズ(Carl Rogers、1902—1987)のカウンセリング実習に参加する。ジェンドリンはそこで、どのような場合に心理療法、カウンセリングが成功しているのか、効果をあげているのか、を研究した。セラピストとクライエントの面接の録音記録を分析し、実際的な効果が見いだされたセッションでは、カウンセリングにおける当人の体験作用への関り方に特徴があることを彼は突きとめた。それは、クライエントが何を話すかではなく、その発話がどのように生じているか、ということである。発話がたとえ論理的に矛盾し、意味的に破綻していても、クライエントが直接に身体的に感じているもの(彼の用語では、フェルトセンスfelt sense)に触れて語っているならば、自己理解の進展carrying forwardが引き起こされ、カウンセリングが一定の成果を収める。このことをジェンドリンは明らかにし、それにもとづいてフォーカシングを構想したのである。
 認知神経リハビリテーションとフォーカシングはどちらも、自身が直接感じている身体感覚を、特にメタファーを駆使しつつ表現することによって、自己経験の再編、変様を促すことを目指していると言うことができる。本発表では、この共通点にもとづいてフォーカシングと認知神経リハビリテーションの連携可能性について、私見を提示したい。