第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S1] 基礎系

[S1-03] 脳卒中発症後に麻痺側上肢の身体イメージ障害を呈したが運動イメージの想起は可能だった右半球損傷症例
-Bimanual circle-line coordination taskを用いた発現機序の検討-

*舞田 大輔1 (1. 医療法人田中会 武蔵ヶ丘病院(前:西大和リハビリテーション病院))

【はじめに】    
 Bimanual circle-line coordination task(BCT)は,一側上肢で直線を描く際に反対側上肢で円を描く課題であり,円描写の運動意図が強いほど直線が楕円化する(Franzら 1998).脳卒中患者の場合,円描写の観察やイメージによっても直線の楕円化が起こることから,この楕円化の程度を身体または運動イメージの指標として用いられている(Garbariniら 2012,2013).しかし,BCTで両イメージを調査した対象者の報告はなく,その関係性については不明な部分が多い.    
 本報告の目的は,右半球損傷症例が語った「麻痺手の存在はイメージできないが,運動はイメージできる」という経験をBCTで分析することである.

【症例】    
 40代男性の右利きで,右被殻出血後185日経過していた.左上肢の運動麻痺は,Fugl-Meyer Assessmentが4/66点で感覚は脱失していた.認知障害や半側空間無視はなかったが,身体や運動イメージに関しては先述した発言があった.

【方法】    
 Garbariniら(2013)の報告を参考に,開眼し非麻痺側で描いた直線をベースラインとして,①非麻痺側で直線を描きながら麻痺側で円を描く条件,②他者が描く円を1人称的に観察しながら非麻痺側で直線を描く条件,③他者が描く円を3人称的に観察しながら非麻痺側で直線を描く条件,を非麻痺側の動きが見えないよう仕切り板を設置して行った.次に,Moriokaら(2019)の報告を参考に,閉眼し非麻痺側で描いた直線をベースラインとして,④非麻痺側で直線を描きながら麻痺側で円を描く条件,⑤非麻痺側で直線を描きながら麻痺側で円を描くイメージを行う条件を行った.各条件は1施行12秒間を3回行った.その際,タブレット型PCを用いて直線の楕円化を示す値(ovalization index:OI)も算出した.この値が高いほど直線の楕円化を示す.

【結果と考察】    
 ベースラインのOI(%)に対する各条件の差分値は,①3.4±0.1%,②1.6±2.4%,③-1.7±0.8%,④2.3±1.3%,⑤11.4±3.4%だった.通常,健常者は閉眼の有無に関わらず,円描写を行う条件で最も直線の楕円化が起こることから,症例が語った経験の機序には「運動イメージの過剰な活動」が考えられる.

【説明と同意】    
本報告は本人に説明し同意を得ている.