第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-02] 自己身体の空間定位障害を呈した全盲脳卒中患者に対する損傷前イメージを用いた訓練の効果 −事例報告−

*大矢 涼1、有田 将広1、吉田 恭平1 (1. 社会医療法人 昌林会 安来第一病院)

【はじめに】今回,視床出血により自己身体の空間定位障害を呈した全盲の女性に介入する機会を得た.介入にあたり損傷前イメージの想起が有効であったため報告する.
【事例情報】女性.70代.鍼灸師.性格は挑戦志向.趣味はマラソン.日課は点字の読書と調理.網膜色素変性症を患っており,約6年前に全盲となった.今回,視床出血を発症し回復期病棟に入院.重度知覚障害(運動覚・表在覚重度鈍麻),左不全麻痺(上肢BRSⅢ),注意障害,身体失認を呈した.麻痺手について三人称言語を用いて記述し,認知的言語は用いることができなかった.ADLでの麻痺手の参加はごくわずか.入院中も継続していた点字の読書場面でも体幹を垂直・対称に保持できず,麻痺手は机上から落ちてしまった.「読み間違いが増え,時間がかかる」と訴えた.発症後105日目より介入開始となった.
【病態解釈】視床損傷により自己身体の空間定位が困難である.また,もともと全盲であることに加え,今回重度知覚障害・注意障害・身体失認を呈し,行為の際利用できる求心情報が少ない状態である.6点式点字は6つの点でひとつの文字が構成され,点と点の距離や傾きを識別する必要がある.視床損傷後の自己身体の空間定位障害と求心情報の少なさにより体幹を垂直・対称に保持できず,読み間違いや所要時間が増加していると考えた.
【方法】タブレット(正三角形)等を用いた両手での認知課題を1日1時間×20日間実施.姿勢は端座位で,主に第1〜2段階.損傷前行為のイメージとして「包丁を使った両手での調理動作」の想起を要求.
【結果】運動覚・表在覚中等度鈍麻.上肢BRSⅤ.注意障害・身体失認改善傾向.麻痺手について記述する際の三人称言語は著変ないが,認知的言語を用いる場面が増えた.ADLへの麻痺手の参加が増えた.行為中体幹と麻痺手の保持が可能となり,点字の読み間違い・所要時間が減少した.
【考察】視床損傷により自己身体の空間定位障害を呈し,利用できる求心情報が少なく,誤った運動イメージが生成されていた可能性がある.損傷前イメージを想起することで求心情報が増加し,運動イメージの生成に貢献した可能性がある.
【倫理的配慮】介入の実施および発表について,口頭と文書にて事例本人より同意を得た.