第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-03] 感覚フィードバック装置による感覚情報の補填を契機に母指の操作性が向上した慢性期脳卒中患者

*沖田 かおる1、松村 智宏1,2、上田 有姫1、豊田 拓磨1、國友 晃1,2、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 愛宕病院 脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)

【はじめに】
約16年間重度感覚障害を有する右片麻痺患者の母指に対し,操作能力の向上を目的に感覚情報を補填する感覚フィードバック装置(以下FB装置)を用いたアプローチを実施した.結果,母指の触覚や運動の認識ができるようになり,操作能力が向上したため報告する.

【症例紹介】
対象は約16年前に脳出血を発症し,約6年前より当院にて年に3回ボツリヌス療法と集中リハを実施している60歳台の男性である.集中リハ以外の期間は週に1~2回外来リハを実施している.発症から約16年経過時のBRSは上肢Ⅲ手指Ⅲ,感覚は表在・深部感覚ともに重度鈍麻であり,母指運動の有無は認識困難であった.上肢,手指の屈筋群に痙縮を認めボツリヌス注射が行われた.fugl meyer assessmentの上肢項目は45/66点,wolf motor function test(WMFT)は220,98秒であり,積み木5個の積み上げは127,44秒を要した.身体への注意の焦点化や課題中に感覚情報を比較照合することが困難であり身体や感覚に注意を促すと「どうせ分からない」と発言した.

【病態解釈とアプローチおよび結果】
症例は長期間の感覚障害により感覚情報の認識や比較照合が困難であり,運動学習が困難な状態であると考えた.FB装置(テック技販製,手指のセンサーが物体に触る刺激を頬骨に振動として伝達)にて表在感覚情報を補填しながら運動覚に注意することで母指操作能力の向上に繋げたいと考えた.アプローチは母指にFB装置を装着し他動運動にて素材の識別,運動の有無や運動の開始・停止の認知運動課題を実施した.その後,母指の自動運動やFB装置なしでの物品操作練習等を行った.8回のアプローチ後には表在感覚は素材の差異が大きければ識別できる時があり,母指の運動の有無や開始・停止の認識が可能となった.WMFTは172,02秒,積み木5個の積み上げは33,79秒となり,母指運動に対する注意の焦点化や課題時に感覚情報を比較照合して回答することが可能となった.

【考察】
長期にわたり重度感覚障害を有する本症例の手指に対し,感覚情報を補填したことを契機に母指操作を認識できたことが運動学習を促し手指機能向上に繋がったと考えた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
対象者に発表に関して書面にて説明し同意を得た.また,個人情報保護の観点から匿名性に十分な配慮を行った.