Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-06] 重度の上肢運動麻痺を呈した慢性期脳卒中症例に対する手指の随意伸展運動獲得に向けた試み―症例報告―

*小倉 亮1、富永 孝紀1 (1. 株式会社たか翔)

【はじめに】
脳卒中後の麻痺手において,随意的な伸展運動の可否は,運動機能障害の回復において重要な因子となる(Nijland RH,et al, 2010).今回,手指伸展運動が困難な症例に対し,加振器を用いて運動単位の動員を補完する介入を試み,良好な結果を得たので報告する.

【症例】
右放線冠BADを発症した50歳代男性である.入院加療中,麻痺手に対する積極的な介入を実施するが,MEPは発症時から継続的に導出されなかった.発症29ヵ月時点でのBRSは上肢Ⅴ,手指Ⅲであり,MALはAOU 1.78,QOM 1.67であった.手指の随意伸展運動は困難であり,「動かし方がわからない,どこに力を入れて良いかわからない」と訴えるも,手指屈筋群や他関節筋への放散反応はみられなかった.表在,深部感覚ともに軽度鈍麻であった.

【病態解釈】
運動性下行路の中でも皮質下の病巣であり,かつ手指伸展運動を求めても拮抗筋や他関節筋への放散反応が観察されなかったことから,随意性低下は運動単位の量的動員低下が主要因であると考えた.症例の内省は,運動イメージが障害されたためではなく,意図に反して関節運動が生じなかった結果から構築された二次的なイメージの変容であると解釈した.

【治療仮説と介入】
介入は,上位中枢からの下行性入力によって賦活するα運動ニューロンの興奮性の閾値を物理的に下げた状態で手指伸展運動を求めることで,運動単位の動員を高められると仮説立てた.そこで総指伸筋に対し,振動刺激を与えることで生じる緊張性振動反射を用いながら手指伸展運動を求めると,わずかに関節運動を認めた.そのため,振動刺激を与える頻度を段階付けながら,手指伸展課題を週1回20分間,計12回実施した.

【結果】
各指にばらつきはあるが,全指にわたって随意伸展運動が出現するようになり,ブロックや鉛筆等の物品把持からリリースまで可能となった.BRSは上肢Ⅴ,手指Ⅳ,MALはAOU 2.44,QOM 2.56となった.

【考察】
症例の内省をもとに推測した認知過程のエラーが,一次的に生じたものかを分析し,随意性の低下は運動単位の量的動員低下が主要因であると考えた.本介入により,随意的な手指伸展運動が出現し,麻痺手単独での量的介入が可能となったことは,臨床上意味のある改善であったと考えられた.

【倫理的配慮,説明と同意】
症例に報告の趣旨と内容を説明し,同意を得た.