第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-01] 検査上での変化はなかったが生活場面で無視症状の改善を認めた症例

*加藤 大策1、中里 瑠美子1 (1. 東京女子医科大学附属足立医療センター)

【はじめに】
今回,検査に変化は見られないが生活場面で無視症状に改善を認めた症例を担当したので報告する.

【症例紹介】
症例は右中大脳動脈閉塞により左片麻痺と左身体および空間無視を呈した80歳台の女性である.発症2週目に「左手がずっとなかったんだけどやっと見つかったの」との発言を契機に,これまで全く触れることのなかった左手を触っている場面が観察されるようになった.しかし,左身体及び空間へ注意を促すと傾眠になり左側は探索できなかった.一方で他者に向かう志向性は高く,他者身体に注意を向けても傾眠にならなかった.同時期の左身体機能は随意性が低く,ADLは全介助だった.無視症状以外の高次脳機能障害として全般性注意の低下を認めた.

【病態解釈】
左手の認識は視覚情報に留まっており,体性感覚では知覚できず運動イメージでは想起できないことから三人称的であると考えた.そのため,運動イメージの想起には繋がらず,体性感覚に注意を向けるためには強いtop-downでの注意を要した.しかし,全般性注意の低下から背側経路を基盤とした能動的探索は負荷が大きく困難と解釈した.そこで,他者の身体に注意を向けて認識することを通して自己身体を認識する課題を中心に介入する方針とした.

【経過と結果】
触れられた身体部位を視覚で認識しOTの同身体部位をPointingする課題から開始した.その際,お互いの肩こり等について”おしゃべり”を意識的に入れて経験の共有・共感を通して自己身体をイメージできるように心がけた.介入1週後には徐々に左空間に位置するOTの身体部位も全て見つけて触れられるようになり,ベッド上で身体正中線上にある左手を右手で触っている場面が多くなった.食事も正中から右側の皿は独力で食べられるようになった.一方検査では変化を見られず左側に注意を向けようとした時の傾眠は変わらなかった.

【考察】
他者の身体に関するエピソードを共有しながら他者の身体を認識する根底には,EBAやミラーニューロンシステムなど内側経路の活動を介したことで比較的負荷が少なく自己身体を認識できたことが無視症状の改善に寄与したと考えた.今回の介入は能動的注意が過負荷となる患者には有効ではないかと我々は考えた.残存した能動的探索の困難さは急性期故の機能乖離や脳浮腫の影響ではないかと考えた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
発表に際し口頭で同意を得た.