Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-03] 重度の視覚失認に対して視覚イメージと眼球運動課題の試み
-行為としての歩行獲得を目指して-

*布施 文香1、中里 瑠美子1 (1. 東京女子医科大学附属足立医療センター)

【はじめに】
 重度の視覚失認、運動失行により、麻痺は軽度で歩けるが目的地に向かえない症例に対して、方向認識を目標に眼球運動(以下EOM)の課題を実施した経過を報告する。

【症例紹介】
 トルソー症候群により主に後頭葉の脳梗塞を呈した左利き(箸・書字は右)の50歳代女性である。失語、運動失行、視覚失認、バリント症候群様のEOM障害を有し、視空間を認知することができなかった。あらゆる物や壁を手で確かめながら目的地まで誘導され、本人はどこに向かっているか分からず困惑していた。社会性、知的側面に問題なく、他者に意識や関心を向けられ、他者からの発言に向かう能力が高かった。

【病態解釈】
 連合野を含む視覚野の損傷により、背側・腹側の視覚経路での処理が適正に行われず、方向や形の認識だけでなく、視覚イメージの想起も困難だった。自身をとりまく空間や方向が認識できず、見たい方向を見れない原因の一つにEOM障害が関与すると考えた。自力で眼球を動かすことが困難であるが、他者に向かう志向性の高さから、「セラピスト(以下T)との同じ方向、指さす方向を見る」という共同作業を通して見たい方向に目を向ける体験を目指した。

【経過】
  課題は画像とTのEOM、Tと本人のEOMのマッチングを行った。EOMの方向だけでなく、Tが何をみているかという他者のまなざしの判別も併せて行った。更にTが指さした延長上にある物を認識する課題も行い、EOM→方向→見ている物という一連の流れを、他者のEOMを通してイメージしてもらった。徐々にTと同じ方向へのEOMが出現して読み取れるようになり、見たい方向をイメージしてそちらに目を向けることが可能となった。その結果、トイレまでの経路をイメージすることができ、独力で到着できるようになった。

【考察】
 どこかに向かうには行く方向を見ること、そして見るためにはEOMが必要である。症例は他者に向かう志向性が高く、TのEOMから何を見ているのかTの行為の意味を推測するという、いわば三人称の運動の解釈を通してTの周りの空間をイメージできるようになり、それを自身におきかえることができた結果、自身のEOMにつながったと考える。そこには共同注意が機能しており、他者の意図を推測するメンタライジングシステムの関与が考えられる。

【倫理的配慮(説明と同意)】
  本人および家族に報告の趣旨と内容を説明し同意を得た。