第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-04] 多彩な高次脳機能障害を呈した感覚性失語症例への関わり-注意機能に着目して-

*田中 美穂1、竹田 克之1、石橋 凜太郎1、市村 幸盛1 (1. 医療法人 穂翔会 村田病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
 今回、重度の感覚性失語症に加えて多彩な高次脳機能障害を呈していた症例に対し、図形のマッチング課題を用いて注意機能の負荷を調整した介入を行ったため、経過を報告する。

【症例】
 70歳代女性、右利き、左頭頂葉および前頭葉の皮質下出血で当院入院、開頭血腫除去術。術後1ヵ月より言語機能に対する介入を開始した。重度の感覚性失語、注意障害、失行、右USN、右身体失認など多彩な高次脳機能障害を呈していた。表出は挨拶語で一部可能もジャルゴンを中心としており、SLTAの聴理解課題も遂行困難であった。図形カードのマッチング課題でも注意を的確に向けられず、課題の意図を理解するのに時間を要した。

【病態解釈】
 「同じ図形のカードを並べる」という行為には、カードを比較して、同じ図形かを判断し、カードを置く行為が含まれる。課題遂行できない要因として、提示されたカードに注意を向けられない、比較するための視線移動が困難であることが挙げられた。まずは、単純な図形のマッチング課題で視覚探索の範囲を絞り込み、課題を理解した後に、視覚探索の範囲を拡大させることで注意機能への負荷を調整できるのではないかと考えた。

【介入方法】  
 カードを置く行為は失行の影響もあり困難であったため、「同じカードを指さす」という行為を定着させてから、カードの枚数や配置で難易度を調整し、徐々に視覚探索の範囲を拡大させた。また、カードのカテゴリーも徐々に増やした。

【結果】  
 介入後1ヵ月で図形マッチングが可能、その後、動作絵カードマッチングも可能となり、第73病日にはSLTAの聴覚的理解は単語で6/10正答と、聴覚刺激に対する反応も改善がみられた。

【考察】
 目の位置を変える視覚操作は、明確な注意の方向づけがなされ、これらは、現在の注意の焦点からの解放、合図された位置への注意の転換、そして目標の増幅という一連の基本的な心的操作から成り立っている(Posner,1997)。本症例においても、注意の焦点化を図りつつ、難易度を調整しながら視覚探索範囲を拡大することで、注意機能への負荷が軽減し、課題遂行が可能になった結果、聴覚的理解能力の改善にもつながったのではないかと考えた。

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本発表にあたり、個人情報とプライバシーの保護に配慮し、本人と家族から同意を得た。