第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-05] 左側身体の認識が浮動する左半側空間無視患者
-身体性と空間性を包含した認知運動課題-

*沖田 学1,2、田島 健太朗1,2、山下 峰明1,2、國友 晃1,2 (1. 愛宕病院脳 神経センター ニューロリハビリテーション部門、2. 愛宕病院 リハビリテーション部)

【はじめに】体を動かした実感は運動主体感とよばれ運動能力の向上に重要である (Matsumiya,2021) 。この運動主体感と実際の左下肢の能力が異なっていた左側USN片麻痺症例を担当した。空間表象は身体が基準(Làdavas,2008)になるため、身体性と空間性を主幹とした病態解釈を基に認知運動課題を実施して歩行能力が向上したので報告する。

【症例紹介】症例は脳梗塞後5ヶ月経過して転院してきた60歳台男性である。左側身体機能はBr-StageⅢで中等度感覚障害を認め、ADLは車椅子監視レベルで左側USNを認めた。歩行は軽介助レベルで、2つのコーンを8字に歩行すると左回りでコーンに左足をぶつけても歩き続けた。身体認識は「左右は一緒」と返答したが、身体所有感の7件法の質問では“ほとんど自分のものに感じない”と解答した。運動主体感では左側を“どちらかといえば動かしたと感じる”と解答し、実際に左右比較すると「(左は)実感が無い」と答えた。質問紙では病態失認を認めなかった。

【病態解釈】症例の病態は左側の空間性の狭小と身体性の変質により、左側の物理空間と身体を適応できないことが基盤と考えた。効率的な身体運動や修正行為ができず運動学習が困難になっていると解釈した。

【治療課題および経過】治療課題の設定条件として、予測した左下肢の運動の結果を感覚情報で照合することと、左側の対象物と足部の空間性の照合を挙げた。課題は硬さの違うスポンジを予測して踏み分けたり、足下の3つの棒から指示された棒を遮蔽下で蹴り倒したりして運動実感を得るようにした。そして、歩行練習は左側対象を意識する環境下で実施した。介入2ヶ月後にBIT 通常89→119点・行動49→57点などUSN症状の軽減を認めた。身体所有感と運動主体感ともに左右差を“どちらかといえば感じない”と解答し、自ら「左脚はわかってきている感じがない」と知覚の欠損を認識した。10m T杖装具努力歩行では45.21秒秒から26.30秒となり8字歩行も左をぶつけなかった。症例は、屋内歩行自立して自宅退院した。

【考察】左側身体性と対象との空間関係を認知する課題に特化して実施したことが身体の捉え方と行為の安定性の改善に繋がったと推察した。

【倫理的配慮】対象者本人と妻から発表に関して説明し同意を得た。また、個人情報保護の観点から匿名性に十分な配慮を行った。