Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-06] 自らの言語症状に気付き,言語行為に変化が生じた生活期の重度失語症例

*宍戸 加奈美1 (1. 函館稜北病院)

【はじめに】
 本症例は他者との対話を解読できていないことを自覚し,発語行為・発語内行為に改善がみられたため,報告する.

【症例】
 X年,左被殻出血により被殻失語を呈した70歳台前半の男性.X+1年5か月に自宅退院し,訪問リハビリ開始となる.失語症のタイプは非定型型だが感覚性失語の要素が強く重度であった.発話は流暢だがジャーゴンが中心であり,聴覚的理解は標準失語症検査(SLTA)で単語レベルから低下を認めた.日常場面では聴覚的理解の低下を状況判断で補う場面はみられるものの,情報処理が追い付かないと怒り出す場面もあった.SLTAの結果は単語の理解4/10・呼称1/20.その他,失行症・保続が疑われた.

【病態解釈】
 本症例は視覚情報と聴覚情報の照合がうまく出来ず,何と何を比較するのか,またセラピストが言った文を解読できない事に気付けない状態であった.また動詞と名詞の解読に差がみられた。失行症状も一部みられ,動詞の解読(食べる,飲む,たばこを吸うなど)で体性感覚情報への変換を伴う場合には,視覚情報を分析統合し,聴覚情報と比較して解読する事が難しいと考えた.

【治療アプローチ】
 テーマ(既知情報)を動詞,レーマ(未知情報)を差異に気付きやすい名詞に設定することで,聴覚的理解の向上を図る事ができるのではないかと仮説を立てた. 症例の注意の向きやすさを考慮し,好きな食べ物を中心に名詞(目的語)を選定した.4枚×2セットの写真で構成されたカードを解読する課題を週1回40分,約5か月間,実施した.症例の反応や発話を確認しながら視覚分析をアシストし,発話スピードや語順に配慮してセラピストが問いを提示すると,自身のエラーに気付き納得される様子が見られるようになった.

【結果・考察】
 SLTAは単語の理解(10/10),呼称(8/20)と改善を認めた. 妻からは「コミュニケーションとしての会話」が可能になってきたとの発言が聞かれ,相互に作用する的確な文レベルでの対話が増えた.症例が分析しやすい名詞をレーマに設定した事で,視覚情報と聴覚情報の比較照合が可能となり,自身の予測と結果の差異に気付くようになったと考える.今後は動詞の解読や失行症への感覚モダリティ間の情報変換を段階的にアプローチし,更に言語行為の改善を図りたい.

【倫理的配慮】
 発表に際して症例・家族へ説明を行い,同意を得た.