Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-07] 歯ブラシの持ち替えが困難だった症例に対する介入経験—両上肢間の体性感覚の移送に着目して—

*辻󠄀田 有希奈1、林田 佳子1、石橋 ゆりえ1、赤口 諒1、松田 総一郎1、田中 美伎1、橋本 宏二郎1、奥埜 博之1 (1. 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 左右の切替が必要な歯磨き動作において,患側から健側への歯ブラシの持ち替えが困難だった症例に対し,体性感覚の移送に着目した評価・介入を行ったことで,良好な経過を得たため報告する.

【症例紹介】
 症例は脳梗塞により左前頭葉,脳梁近傍に損傷を認めた80歳代の右利き女性である.発症後90病日で,BRSは右上肢Ⅳ,手指Ⅴ,深部感覚は著明な低下を認めず,体性感覚の再生は可能だった.歯磨き動作は健側で可能だったが,動作拙劣な患側で実施し,頭頸部回旋の代償を伴っていた.動作中「利き手の方がやりやすい」と記述し,健側から患側へ歯ブラシを持ち替える様子を認めたが,患側から健側へは認めなかった.MMSEは26/30点,TMT-Aは8分39秒,TMT-Bは実施困難だった.SPTAは誤反応得点50/174点(除外項目2)で検査4の運動覚の移送において健側から患側の手指の模倣は可能だったが,患側から健側は困難だった.そこで,上肢の体性感覚の移送について,SPTAと同様の方法を用いて模倣したところ,患側から健側のみ誤りを認めた.このとき,左右を細かく比較する様子はなく「左右同じ」と記述した.しかし,各関節に注意を向け左右比較すると,誤りを修正でき模倣は可能となった.

【病態解釈と介入】
 体性感覚障害がないにもかかわらず患側から健側の模倣が困難だったことから,患側の体性感覚情報を参照して健側で再現する移送の過程に障害があり,左右の切替も認めないと考えた.そこで,他動的に動かされた一側上肢の模倣を対側で行い,左右比較を促すことで,体性感覚の移送を試みる課題を30分4日間実施した.

【結果と考察】
 患側から健側の体性感覚の移送が可能となった.患側から健側へ歯ブラシを持ち替える様子が観察でき,頭頸部の代償動作は軽減した.また,「左手の方が奥歯を磨ける」と左右比較する様子が観察できた.本症例は体性感覚の移送の障害で左右比較ができず,患側の使用を選択していた.体性感覚の移送が可能となることで,患側と健側の運動機能の比較ができ,適宜左右を切替ながら歯磨き動作が可能となったと考える.左右の切替が必要な行為においては,左右間の体性感覚の移送を考慮することの重要性が示唆された.

【倫理的配慮】
 本報告に関して,症例に説明と同意を得ている.