Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S5] 神経系(その他)

[S5-03] 学習における意識経験を記述する道具としての文字言語-多発性脳梗塞による構音障害・摂食嚥下障害を呈した難渋例を介して-

*木川田 雅子1、本田 慎一郎2 (1. 東北医科薬科大学病院 リハビリテーション部、2. (有)青い鳥コミュニティー)

【はじめに】
 行為の比較照合を介した学習に意識経験の記述は重要だが,今回,言語記述のみでは学習が促進されず,記述内容の文字化が学習の契機となった症例を経験したため報告する.

【症例】
 70代,女性.3ヵ月前より左上肢脱力,1週間前に左眼の違和感と呂律不良が出現し,右半球分水嶺領域の多発性脳梗塞の診断で当院入院となった.左眼瞼・口腔ジストニアによる義歯の動揺を認め,発話明瞭度2/5(時々わからない),発話自然度4/5(顕著に不自然)であった.食事(常食)は咽なく摂取されていたが,下顎の上下運動が乏しく,咀嚼は不十分であった.下顎下制は顕著に右側偏位し,右側5㎜,左側20㎜と制限を認めたが,「右の方が開いている」と認識した.咬合時の下顎挙上力は左側優位であったが,圧感覚を「右の方が強い」と認識した.内省では義歯不適合を訴え,呂律不良に関して「周りから言われる」と病識欠如を認めた.FIM(認知)34/35点と対話は良好で,エピソード記憶も保たれていた.

【病態解釈】
 左眼瞼の強い筋収縮に伴い口角も左側へ引かれ義歯が動揺するため,下顎の安定を保持しようと右下顎の緊張を把持した結果,空間・圧情報の誤認識が誘発され,非麻痺側の下顎運動障害に繋がったと考えた.

【介入および結果】
 下顎運動の改善を目的とし,体性感覚-視覚-言語の情報変換に留意した空間・接触課題を40分/回,18日間実施した.下顎運動は,舌圧子を用いて開口を促すことで安易に改善し,誤認した体性感覚情報の記述の整合性も得られたが,記述内容は翌日まで把持されず学習は停滞した.そこで介入13日目より,施行中の体性感覚情報と前日の記述内容の比較照合を課題に取り入れると,自ら記録する行為が得られ,その後の学習効果を認めた.
 下顎下制は右側30㎜,左側40㎜へ改善し,「左の方が開いているんだよね」と内省も変化した.発話は発話明瞭度1(わかる),発話自然度2(やや不自然)へ改善し,食事場面でも咀嚼運動の改善が得られた.

【考察】
 症例の記述はセラピストの要請に応えた要素が強く,比較照合に必要な意識経験の言語に至らなかった.今回の結果より,記述の文字言語化は,能動的な学習に必要な情報の文脈化や再認の補助手段となり,比較照合の学習機構がより活性されることが示唆された.

【倫理的配慮】
 本発表にあたり個人情報とプライバシーの保護に配慮し,症例より同意を得た.