第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S7] 整形外科疾患

[S7-02] 色彩から体性感覚への情報変換を考慮した関わりの可能性
-身体表現性障害により右手不使用が10年以上続いている症例への介入経験を通して-

*三上 純1,2、壹岐 伸弥2、川口 琢也2 (1. リハビリフィットネスFull Life、2. 医療法人 香庸会 川口脳神経外科リハビリクリニック)

【はじめに】今回,右上肢の痺れが強く療法士が触れることができない症例に対して,過去のポジティブな経験をもとに色彩から体性感覚への情報変換を考慮した関わりの可能性を経過から考察する.
【症例紹介】60歳代女性.要介護2.14年前の頸椎ヘルニア術後に手の痺れが悪化し様々な診療科受診するが原因がはっきりせず,最終的に心療内科で身体表現性障害と診断される.リハビリテーション目的で当通所介護施設利用開始となる.右上肢に痺れが強く療法士が触れることができない状態であり,日常生活においても右上肢の不使用を認めた.疼痛の質問紙評価には拒否があり評価困難であった.運動イメージ評価であるKinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ)では母指-指先で視覚イメージ2/5点(不鮮明)・筋感覚イメージ1点(イメージなし)と低下を認めた.評価的訓練として行った表面性状課題では不快感が惹起され素材に触れることが困難であった.
【病態解釈・治療介入】行為予測の時点で痺れによる不快感が含まれているため触れることが出来ないと考えた.受傷前の経験として,「ライブが好き.ペンライトとかの明るい雰囲気が好き.」といったポジティブな経験が聞かれたことを手掛かりに,黄色やピンクの色彩の接触感を問うたところ,「柔らかい感じがする.」と色彩から体性感覚への情報変換が可能であり,「触れるかもしれない.」との発言が聞かれた.そのため,黄色やピンクのボールを両手で触れ左右比較を行う課題を実施した.
【結果】施設利用開始3ヶ月後,施設利用中はペットボトルの蓋を開ける,紙コップで水を飲むなど右手を使用することが可能となった.KVIQでは母指-指先で視覚イメージ3点(適度に明瞭なイメージ)・筋感覚イメージ2点と向上を認めたが,痺れや日常生活上の使用頻度に変化はみられなかった.
【考察】運動イメージ課題として,Moseleyの段階的運動イメージ課題が提唱されているが,過剰な痺れの予期により段階的運動イメージ課題の実施が困難であった.深津らは色彩から体性感覚イメージへの変換を報告しており,ポジティブな過去の経験をもとに色彩から体性感覚イメージへ変換されたことにより右手での行為が一部可能になったと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】本発表に関して,本症例には説明し同意を得た.